IPL・光治療の メカニズム Mechanisms of Intense Pulsed Light
IPLの基礎知識と仕組みと進歩について
IPL(Intense Pulsed Light)はレーザーとは異なり、複数の波長を含むフラッシュ光を肌に照射する治療法です。シミ・そばかす、赤ら顔、毛穴など様々な肌トラブルにアプローチできるため、多くの施設で使用されています。
本ページでは、IPL光治療の基礎知識を最新情報も踏まえてまとめてみました。
「パルス幅」「波長」「スポットサイズ」「エネルギー」という4つの重要パラメータについて、最近の知見を踏まえて、技術的な解説を行ないたいと思います。
※ 当院のレーザー治療は、これらIPL治療の経験と知見を基に行われています。
当院のシミ治療全般については、総合ページにまとめています。
この記事の目次
IPLとは?その仕組みと特徴
IPLは特定の波長に固定されたレーザー光とは異なり、幅広い波長帯の光を一度に照射します。例えば500~1200nmの範囲の光を発生させ、そこからフィルターで不要な波長をカットして使用します。
肌の中の「標的(ターゲット)となる組織=クロモフォア」(メラニン色素やヘモグロビン、水など)は、それぞれ特定の波長の光を吸収します。IPLはこうした複数のクロモフォアに同時に作用できるため、シミや赤み、小じわの軽減など多面的な美肌効果が期待できます。
一方で、レーザーよりも光エネルギーが拡散しやすいため即効性はマイルドですが、ダウンタイムが短く安全性が高いというメリットがあります。
ポイント: IPLはBroadBand(ブロードバンド)とも呼ばれる幅広い波長の光を用い、複数の肌トラブルを同時にケアできる治療です。ただし作用をコントロールするために、「パルス幅」「波長フィルター」「スポットサイズ」「エネルギー密度」の設定を適切に組み合わせる必要があります。以下ではこれら各パラメータの意味と役割を解説します。
パルス幅(Pulse Duration)とは何か
パルス幅とは、IPL光が一点に照射されている時間の長さのことです。例えば「3ms(ミリ秒)のパルス幅」なら、その時間だけ光エネルギーが放出され続けます。
パルス幅は組織への熱の伝わり方に深く関係し、適切に設定することでターゲット組織だけを効果的に加熱し、周囲組織へのダメージを抑えることが可能です。
熱緩和時間(TRT)との関係
レーザー・IPL治療の重要概念に「熱緩和時間(Thermal Relaxation Time, TRT)」があります。これは組織が蓄えた熱の半分を拡散するのに要する時間を指し、一般にターゲットが大きいほどTRTは長くなります。
効果的な光治療を行うには、「パルス幅をターゲットのTRT以下にする」ことが望ましいとされています。こうすることで、ターゲット内部に十分な熱ダメージを与えつつ、熱が周囲へ逃げ出す前に照射が終了するため、周囲組織の損傷を最小限にできます。
例えば、毛細血管拡張など細い血管(直径0.1mm程度)のTRTはおよそ10ms、太めの血管(0.3mm程度)では約100msと報告されています。小さなシミ粒子(メラニン顆粒)や毛包はTRTがさらに短く、数ミリ秒以下とも言われます。このため小さなターゲットには短いパルス幅、大きなターゲットには長めのパルス幅を選ぶのが基本です。

IPLのパルス幅と熱緩和時間(TRT)の関係模式図です。青のバーは短いパルス(約8ms)、オレンジのバーは長いパルス(約18ms)を示します。
赤の点線は想定ターゲットのTRT(約10ms)で、短いパルスはTRT内に収まり効果的に熱を閉じ込める一方、長いパルスはTRTを超えて周囲組織に熱が拡散しやすくなります。
実際のIPL機器では一度の照射をさらに複数のサブパルスに分割し、間に冷却時間を設ける「マルチパルス照射」も行われます。
パルス幅が及ぼす効果と安全性
短いパルス幅は一瞬で高エネルギーをターゲットに集中させるため、小さなシミや毛の除去に有効です。一方で照射時間が短すぎると十分な熱蓄積が得られず「効果不十分」となる場合もあります。
長いパルス幅はエネルギーをゆっくり与えることで深部まで均一に熱を行き渡らせ、大きな血管病変などに適しています。ただし長すぎるパルスは周囲組織まで熱が広がり、火傷や色素脱失のリスクが高まります。
近年のIPLではパルス幅を細かく調節できるだけでなく、一度の発光を複数のサブパルスに分けて照射(例:3msオン-10msオフ-3msオン-…)することで、表皮を冷ましつつ真皮のターゲットにゆっくりエネルギーを蓄える工夫がされています。
これにより表皮の熱損傷を防ぎながら、真皮内の大きな血管や毛包に十分な熱作用を及ぼすことが可能になっています。
波長(Wavelength)とフィルター設定
IPLは白色フラッシュライトから特定波長域だけを取り出して照射します。どの波長を使うかで光の浸達深度(肌の奥まで届く距離)や作用するクロモフォア(色素標的)が決まります。波長の短い光(青~緑色の光)は浅い層に強く吸収され、波長の長い光(オレンジ~赤外線)は深部まで届くのが特徴です。
クロモフォアと吸収スペクトル
肌の主なクロモフォアであるメラニン(茶色)とヘモグロビン(赤色)は、それぞれ異なる波長の光を吸収します。また水(皮膚中の水分)は赤外域の光で吸収が増大します。
以下の図はメラニン、ヘモグロビン、皮下水分の波長ごとの光吸収特性を概念的に示したものです。
メラニン(オレンジ)ヘモグロビン(赤実線)水(赤点線)の相対吸収スペクトル概略図。
横軸は波長(nm)。メラニンは可視光全域で広く光を吸収し、短波長ほど強い。ヘモグロビンは緑~黄(540nm, 580nm付近)に吸収ピークを持つが、600nm超では吸収が急激に減少。水は800nm以上で吸収が増え始め、特に1000nmを超えると大きくなります。
灰色の帯は「血管よりメラニンの方が優位に吸収する波長帯(約630~1100nm)」を示しています。IPLではフィルターにより照射波長範囲を制御することで、ターゲットに合わせた選択的な光吸収を狙うことができます。
例えば、メラニンに吸収されやすい短波長域(500~600nm)は表皮のシミや雀卵斑、赤ら顔の毛細血管に効果的です。一方、長波長域(700~1000nm)は皮膚深部に到達しやすく、真皮のコラーゲン線維の加熱によるリジュビネーション効果(ハリ改善)や、毛根のメラニンを減らす脱毛効果をもたらします。
また900nm以上になると水分に吸収されて熱エネルギーが失われやすくなるため、一般的なIPLではカットオフフィルターで上限波長を950nm前後までに制限することが多いです。
IPLフィルターのについて:
初期のIPL機器では波長515nm・550nm・570nm・590nm…など多数のカットフィルターが用意されていました。例えば「560nmフィルター」を装着すると560nmより短い光を除去し、それ以上の波長のみ(560~1200nm程度)を照射します。波長が長くなるほど光は肌の奥まで届きますがメラニン吸収は弱まるため、浅いシミには560nmフィルター、深いシミやくすみには590nmフィルターといった使い分けが行われました。
しかし近年では機器性能向上により、一度の照射で複数の波長帯を連続的に出力できるIPLも開発されています(フィルターを交換せずとも血管用・シミ用を自動切替するなど)。
さらに、特定の吸収帯に絞ったナローバンドIPLも登場しています。吸収ピークに合わせ500-600 nm前後の波長だけを通す方式。レーザーに近い選択性で使用できるようになっています。
更にデュアルナローバンドIPLも登場しています。「500–600nmと→900–1200nmだけを含む光」のように、メラニンとヘモグロビンの両方に効率的な波長だけを選んで照射できる機種もあります(=中間帯650-900nmをカット→半端にメラニンを加熱して熱傷を起こす帯域を除外 → 安全性アップ)。
このように技術の進歩で照射波長プロファイルを自在に最適化できるIPLが登場しており、安全性と治療効果の両立が益々進んでいます。
スポットサイズ(Spot Size)の意味
スポットサイズとは、光を照射するスポット(一発あたり光が当たる面積)の大きさです。
直径が何mmかで表され、例えばスポットサイズが大きい(例:直径10mm)と一度に広い範囲を照射できます。逆にスポットサイズが小さい(例:直径3mm)と狭い範囲に集中して当てられます。
それだけの違いに思えますが、実際には光の皮膚内への届きやすさにも影響する重要なパラメータです。
大きいスポットは光が深く届く
レーザー治療の分野で知られる現象ですが、スポットサイズが大きいほど光は組織内で拡散しにくく、結果として深部まで届きやすくなります。言い換えると、小さなスポットでは照射部位の周辺から光が逸れてしまい、浅い層で減衰しやすいのです。
このため、シミ・美肌目的ならスポットサイズの大小で効果に大差ありませんが、毛の太さや血管の太さによっては、適切なスポット径を選ぶことで治療効果が高まる場合があります。
スポットサイズの違いによる光の浸透イメージ。右は小スポット(直径数mm)の照射で、光の広がりが大きく深部までは届きにくい(青い領域が浅い位置で拡散し、真皮層まで到達していない)。左は大スポット(直径1cm程度)では光が指向性を保ち、より深い位置まで到達している(青い領域が深部まで広がり、真皮層まで達している)。実際には皮膚表面の凹凸や部位の曲面への照射適合性も考慮しながらスポットサイズを選択する。
スポットサイズと治療効率
IPL光治療では、通常大きめのスポット(8~10mm程度)で顔全体を短時間でカバーできるよう設計されています。その一方、目元や小鼻脇など細かな部分にはスポットが大きすぎて当てにくいこともあります。
その場合はアタッチメントでスポットを小さくするか、照射範囲を限定してカバーする工夫が必要です。
また、仮に同じエネルギー密度であれば、スポットが大きい方が光が拡散せず集中的に作用するため、実効的なエネルギーのロスが少ないとも言われます。ただし極端に大きなスポットでは照射面がフラットでないと均一な照射が難しくなるなどの課題もあるため、顔の曲面になじみやすい範囲でスポット径が設定されています。
豆知識:
IPLのスポットサイズは「ランプ(光源)からフィルター窓までの光学系設計」に左右されます。一般的なIPLでは長方形または楕円形のスポットで、例えば8mm×15mmなど面長型の照射斑を持つ機種もあります。スポット形状によっても光の重なりやムラに影響するため、均一な照射斑形状を実現する技術が各社で追求されています。
エネルギー(Fluence)と設定方法
エネルギー密度(Fluence, フルエンス)は、単位面積あたりに照射される光エネルギー量(J/cm²)を指します。簡単に言えば「光の強さ」の設定値で、IPL機器では何ジュールで照射するかを調節できます。適切なエネルギー設定は治療効果と安全性のバランス上、非常に重要です。
高すぎず低すぎず:適正フルエンス
光治療では、ターゲットを破壊するのに必要十分なエネルギーを与えることが必要ですが、過剰なエネルギーは火傷など副作用リスクを高めます。
経験的に、シミ治療では「軽度のかさぶたができて自然に剥がれる」程度が適正エネルギーとされ、強すぎて水疱になるのは行き過ぎ、全く反応がないのは不足と判断されます。また、赤ら顔治療では強すぎると一時的な紫斑が出現するため、出さずに効果を出す範囲が目標になります。
エネルギー密度(フルエンス)と治療効果・リスクの関係概念図。
横軸はフルエンス(J/cm²)。緑線は治療効果(例えばシミ除去率)、赤破線は副作用リスク(例えば火傷発生率)を模式的に示します。
低出力域(灰色)は効果不十分で、副作用リスクも低い。中間の適正域(薄緑)は効果が急激に高まり80%以上の病変が改善する一方、副作用リスクはまだ低い理想的な範囲。高出力域(薄赤)では副作用リスク(火傷・色素沈着など)が急増し、安全マージンを超えます。
実際の臨床では患者の肌質に応じて安全域が異なるため、経験に基づきスキンタイプの分類(Fitzpatrick分類など)ごとに推奨エネルギー設定が定められています。
スキンタイプ別の設定目安
個人の肌色や肌質によっても適正エネルギーは異なります。一般に色白の肌は高めのエネルギーに耐えられ、色黒・褐色の肌では低めのエネルギーで慎重に行う必要があります。
これは肌表皮のメラニン量が多いほど光を吸収してしまい火傷リスクが高まるためです。世界的にはFitzpatrickスキンタイプ(I~VIの6段階)で推奨ジュール値の目安が示されており、たとえばタイプIII(日本人中間くらい)なら10~12 J/cm²前後からテスト照射する、といった指針があります。
ただ、機種ごとの照射効率やフィルター条件によって肌に与える実効エネルギーは異なるため、臨床現場では、まず低めから照射して反応を見つつ徐々に適正値に近づけるのが安全な方法です。
また、照射部位によっても耐えられるエネルギーは違います。例えば鼻や頬の高い部分は表皮が薄く熱がこもりやすいため低めに設定し、逆に頬や顎の厚みある部分は高めでも大丈夫、といった調整を行います。
治療経験を積んだドクター・施術者ほど、患者一人ひとりの肌状態を見極めて「効かせつつ無理をしない」絶妙なエネルギー設定を実践しています。
おわりに:IPLの進化と今後
IPLは1990年代半ばに誕生して以降、「レーザーに劣る古い機器」と思われた時期もありました。しかし技術改良によりデバイス性能が飛躍的に向上し、近年はフィルター制御やパルス波形の工夫でレーザーに匹敵する効果と安全性を実現したIPLも登場しています。
例えば2024年の報告では、酒さ(赤ら顔)の治療においてIPL(波長530–650 & 900–1200nmフィルター使用)とダイレーザ(595nm)の有効性が同等で、副作用はIPLの方が軽微だったとされています。
このようにIPLは「やさしい光治療」でありながら、適切に用いれば専門領域でも通用する有用な治療モダリティです。今後さらに研究が進めば、IPL単独あるいは他治療との組み合わせで、より幅広い皮膚美容・治療ニーズに応える可能性を秘めています。
当院は長年にわたりIPL治療を行なってまいりました。しかし、現在はレーザー治療が主力となりIPL治療は終了しています。今後IPLの進歩如何によっては再度見直す時期が来るのかもしれません。
参考文献(最新の研究から)
IPLはニキビ跡の赤み・色素沈着を改善する:中国人患者を対象とした後ろ向き研究
原題 Intense Pulsed Light Therapy Improves Acne-Induced Post-inflammatory Erythema and Hyperpigmentation: A Retrospective Study in Chinese Patients
Wu X et al. Dermatol Ther (Heidelb) 12(5):1147-1156 (2022)
要約 ニキビ跡の赤み(PIE)や色素沈着(PIH)計60例にIPL(560/590/640nmフィルターを各セッションで順次使用)を3~7回照射し評価した研究。81.7%の患者で紅斑・色素沈着の完全または部分消失を認め、色調分析でも有意な改善が得られた。長期的な副作用は報告されず、わずか11.7%の症例でニキビの再燃がみられたのみ。IPLは炎症後紅斑・色素沈着に対し有効かつ安全な治療法であると結論付けている。
血管に特化したフィルター搭載IPL機器による酒皶・血管病変の効果的治療:臨床およびダーモスコピー解析
原題 Effective Treatment of Rosacea and Other Vascular Lesions Using Intense Pulsed Light System Emitting Vascular Chromophore-Specific Wavelengths: A Clinical and Dermoscopical Analysis
Piccolo D et al J. Clin. Med. 13(6):1646 (2024)
要約 血管病変に特化した波長帯(500–650nm & 900–1200nm)を照射できるIPLで酒皶患者39名を治療し、有効性と安全性を検証した研究。治療後、39名中21名で「顕著な改善」、13名で「良好な改善」を示し、残りも中等度以下の改善を示した。副作用となるダウンタイムは最小で、治療抵抗性の血管病変にも有望な治療となり得ると報告している。
ナローバンドIPLモジュールによる色素病変治療の安全性と有効性
原題 Using an intense pulsed light (IPL) module for the treatment of pigmented lesions
Dobroshi K et al. J Cosmet Dermatol 23(S1):27-32 (2024)
要約 ナローバンドIPLによるシミ治療の効果を20例で検証した研究。盲検評価による平均改善スコアは7.55/10、患者満足度も7.3/10と高く、追加で肌の引き締まりや小じわ軽減といった予想外の好影響も確認された。痛みや副作用は最小限で、IPLは色素病変の治療に安全かつ効果的であり、コラーゲン産生を促す可能性も示唆している。
IPLとNd-YAGレーザーの組み合わせによる毛細血管拡張の治療
原題 Sequential Use of 532/1064 nm Laser and IPL for Facial Erythrosis
Bennardo L et al. Photobiomodul Photomed Laser Surg. 37(9):539-543 (2019)
要約 顔面紅斑に対し532nm/1064nmのNd:YAGレーザーとIPLを組み合わせた治療を報告した症例研究。レーザー単独では残存していた細かな毛細血管拡張が、IPL併用により著明に改善したことが示された。IPLを追加することで異なる波長での相乗効果が得られ、より完治に近づける可能性を示唆している。
※上記は近年の研究例であり、IPLの適応と技術進歩に関する最新知見を抜粋して紹介しました。
監修者情報
佐藤 雅樹 (さとう まさき)
美容皮膚科 ソララクリニック 院長
2000年 順天堂大学医学部卒。順天堂大学医学部形成外科入局。 大学医学部付属病院等を経て、都内美容皮膚科クリニックにてレーザー治療の研鑽を積む。2011年3月 ソララクリニック開院 院長就任。2022年 医療法人 松柴会 理事長就任。日本美容皮膚科学会 日本形成外科学会 日本抗加齢医学会 日本レーザー医学会 点滴療法研究会 日本医療毛髪再生研究会他所属。
様々な医療レーザー機器に精通し、2011年アジア地区でルビーフラクショナル搭載機器を初導入。各種エネルギーベースの医療機器を併用する複合治療に積極的に取り組む.