肝斑の治療、効いているか どうかはどう判断しますか?
世界で使われるMASIスコアの中身と、
Q.肝斑の治療を半年ほど続けています。ただ、自分では良くなっているのかどうかがよくわかりません。効果があるかどうかは、どうやって判断しているのでしょうか。点数のような形で出るものなのでしょうか。
A.肝斑の重症度を点数にするMASIスコアという国際的な指標はありますが、研究向けの道具です。当院では条件を揃えて撮影した肌画像と、ご本人の実感を組み合わせて判断しています。以下でくわしくご説明します。
この記事の要点
- 肝斑の変化は、鏡を見ているご本人がいちばん気づきにくいものです。
- 点数化する指標(MASI)はありますが、研究向けの道具で、日常の診察には向きません。
- 見比べる方法にも弱点があります。治療した医師は改善を高めに見積もりがちです。
- だから当院は、肌画像・前後の比較・ご本人の実感の3つを重ねて判断します。
- 改良版の指標も新しい画像技術も出ていますが、日常の診察に届くにはまだ距離があります。
この記事の目次
鏡を見ていても、自分では 判定しにくいのが肝斑です
診察室でいちばん多く耳にするのが、「効いているのかどうか、正直よくわからない」という声です。
これは気のせいではありません。肝斑には、自己判定を難しくする理由がそろっています。
毎日見ているから、気づけない
肝斑の変化はゆっくりです。1日ぶんの差はごくわずかで、毎朝鏡で見ているご本人には、まず知覚できません。
久しぶりに会ったご家族やお友達に指摘されて初めて気づく。そういうことがよく起こります。
見え方は、その日の条件で変わる
洗面所の照明、窓から入る光、時間帯、肌の乾燥具合、睡眠。肝斑の見え方はこれらで簡単に変わります。朝と夜で印象が違うことも珍しくありません。
「今日は濃い気がする」という感覚には、肝斑そのもの以外の要素がかなり混ざっています。
記憶は当てにならない
治療前の状態を正確に覚えている方は、ほとんどいらっしゃいません。記憶は直前の状態に引きずられて書き換わります。
良くなっているときほど「前からこんなものだった気がする」と感じ、一時的に濃くなると「治療前より悪くなった」と感じる。どちらもよくあることです。
だから治療を始める前の記録が必要になります。
肝斑の治療内容については、肝斑改善集中プランのページをご覧ください。
世界にはMASIという 物差しがあります
肝斑の重症度を数値にする試みは以前からありました。いま最も広く使われているのがMASI(Melasma Area and Severity Index/肝斑面積・重症度指数)で、日本では「MASIスコア」と呼ばれることもよくあります。
1994年、米ミシガン大学のKimbrough-Greenらが、肝斑に対する外用トレチノインの臨床試験を行う際に考案しました。別の皮膚の病気で使われていた採点法を、肝斑向けに作り変えたものです。
原著論文には「our Melasma Area and Severity Index(我々の肝斑面積・重症度指数)」と書かれています。独立した尺度として設計されたわけではなく、その試験のために作ったものが後から標準化された。そういう経緯がうかがえます。
そもそも日本人の肌を 想定して作られていない
MASIが生まれた1994年の試験は、アフリカ系アメリカ人30名を対象に行われました。原題も「melasma in black patients」です。なおスキンタイプ(肌の色の分類)は、この論文には記載がありません。
注目したいのは、論文自身が集団による差を記録している点です。同じように集めた白人の方と比べると、この試験の参加者は発症年齢が遅く、頬骨部に出やすかったと報告されています。同じ肝斑でも、出方が違うということです。
のちにMSIを提案したMajidらも、限界として「単一の民族集団・限られたスキンタイプでの検証であり、複数のスキンタイプを含む集団への適用が必要」と明記しました。
もとの肌の色が違えば色素の見え方は変わり、どんな色素が一緒に出やすいかも異なります。日本人の頬に多いADMは、これらの試験の想定に入っていません。MASIは、日本人の肌を想定して設計された指標ではないということです。
同じことは肌画像診断機器にも言えます。当院で使っているVISIAも欧米人の肌を基準に設計されている面があり、メラニン量の多い日本人の肌では数値が実態とずれることがあります。海外で作られた物差しを日本人に当てるときは、いつもこの補正が要ります。
監修:佐藤雅樹(ソララクリニック院長)
顔を4つに分けて採点する
MASIでは顔を前額・右頬・左頬・下顎の4つに分け、それぞれ面積・濃さ・均一性を採点します。区画ごとの重み(前額と両頬が各0.3、下顎が0.1)は、顔面全体に占めるおおよその面積比です。
| 点 | 面積 A | 濃さ D | 均一性 H |
|---|---|---|---|
| 0 | なし | なし | なし |
| 1 | 10%未満 | わずか | わずか |
| 2 | 10〜29% | 軽度 | 軽度 |
| 3 | 30〜49% | 明瞭 | 明瞭 |
| 4 | 50〜69% | 高度 | 高度 |
| 5 | 70〜89% | — | — |
| 6 | 90〜100% | — | — |
面積Aは「その区画のうち肝斑が何割を占めるか」です。区画ごとに濃さと均一性を足したものに面積を掛け、重みをつけて合計します。0〜48点の範囲で、数字が大きいほど重い状態です。
いまは「均一性」を外した 改変版(mMASI)が主流
2011年、米テキサス大学サウスウェスタン医療センターのPandyaらが検証を行いました。訓練を受けた6名の評価者が、21名の肝斑を2日にわたり1日1回ずつ採点する、という設計です。
結果、3項目のうち「均一性」がもっとも採点者の間で割れました。しかも、この項目を外しても信頼性は落ちませんでした。
濃さは濃いか薄いかという一本の物差しの判断ですが、均一性は”まだら”をどう捉えるかという解釈が入ります。境界がぼやけた状態を均一と見るか不均一と見るかは、人によって分かれます。
こうして均一性を除いた改変版が提案されました。mMASI(頭の m は modified = 改変された、という意味です)で、点数は0〜24点になります。現在の研究ではこちらが主に使われています。2017年にはエジプトのAbou-Talebらが、mMASIでも治療による変化をきちんと捉えられること、習得も計算もMASIより容易であることを報告しました。
実際に計算してみます
言葉だけではつかみにくいので、両頬を中心とした典型的な肝斑で計算してみます。ここでは現在の研究で主に使われているmMASI、つまり均一性を外した版で計算します。
| 区画 | 重み | 治療前 A × D |
12週後 A × D |
小計の変化 |
|---|---|---|---|---|
| 前額 | 0.3 | 1 × 1 | 0 × 0 | 0.3 → 0 |
| 右頬 | 0.3 | 3 × 2 | 2 × 1 | 1.8 → 0.6 |
| 左頬 | 0.3 | 3 × 2 | 2 × 2 | 1.8 → 1.2 |
| 下顎 | 0.1 | 0 × 0 | 0 × 0 | 0 → 0 |
| mMASI 合計 | 3.9 → 1.8 | |||
改善率は(3.9 − 1.8)÷ 3.9 で約54%。臨床試験では、50%以上改善した場合を「反応した」とみなすMASI50という区切りが用いられることがあります。
「何点変われば意味があるか」は決まっていない
MASI・mMASIについては、臨床的に意味のある最小の変化量が確立された基準を確認できていません。「1点下がれば違いを実感できる」といった根拠のある目安が、まだ見当たらないのです。
MASI50という区切りも、実感から導かれたというより、研究上の慣例として使われている数字です。
濃さが1段階違うと、点数は2倍変わる
上の表の12週後を見比べてください。両頬とも面積は「2」で同じですが、濃さが2のままの左頬は1.2点、1に下がった右頬は0.6点です。ちょうど2倍の差になります。
濃さの評価が1段階動くだけで、その区画の点数はこれだけ動きます。治療前の3.9という数字は、思うほど頑丈ではないのです。
これは集団を比べるための 道具です
MASIは、きちんと検証された価値ある指標です。ただし設計思想は「新しい治療法Aは従来のBより優れているか」を、何十人という集団同士で比べることにあります。
集団を比べる場面では、採点のばらつきは両群に等しくかかって打ち消し合います。指標として十分に機能します。困るのは、おひとりの経過を月ごとに追う用途に転用したときです。
日常の診察に向かない5つの理由
- 面積は測らず、見た目で判断している
- 他の色素と混ざると分けられない
- 鼻と上口唇が区画にない
- 採点する人が変わると動く
- 「何点なら重症」の基準が統一されていない
① 目分量
MASIの面積を、定規や画像解析で測ることはしません。「10〜29%」「30〜49%」という20%きざみの粗い区分に、見た目で当てはめるだけです。
もともと精密な計測を想定していない設計ですから、これ自体を欠陥と呼ぶのは酷でしょう。ただ結果として、小数点まで出る点数の中身が目分量、という状態になります。
監修:佐藤雅樹(ソララクリニック院長)
② 混ざった色素
日本人の肌では、これが特に大きな問題になります。
日本人の頬には、肝斑だけでなくADM(後天性真皮メラノサイトーシス)、日光性色素斑(年齢とともに出るシミ)、そばかす、炎症後色素沈着(ニキビや傷のあとに残る色)が同時にあることが少なくありません。MASIにこれらを切り分ける機能はなく、頬にある色素をまとめて採点してしまいます。
研究ではこの問題を、測定の段階ではなく参加者を選ぶ段階で処理しています。肝斑だけがある方を選んで組み入れるわけです。日常の診療に、その入口の絞り込みはありません。
点数が動いても、それが肝斑の変化なのか他の色素の変化なのかを、点数から読み取ることはできません。
ADMについては ADM(後天性真皮メラノサイトーシス) をご覧ください
③ 鼻と上口唇
MASIの4区画は前額・右頬・左頬・下顎で、鼻と上口唇はどこにも含まれていません。ところが日本人の肝斑では、上口唇(鼻の下)に色素が出る方がよく見られます。
ここをどの区画に数えるか、あるいは数えないかは、採点する人の判断次第です。院内で扱いを決めておかないと、同じ方でも採点者によって点数が変わります。
下顎の重みが0.1しかないため、下顎中心の肝斑はどれだけ濃くても点数が上がりにくいという偏りもあります。
④ 採点する人
先ほどのPandyaらの検証で評価者間の一致が良好だったのは、標準化された訓練を行ったうえでの話です。裏を返せば、訓練なしに何人かで採点すればばらつきます。
2025年に中国のZhangらが肝斑の重症度を判定するAIを開発していますが、その動機として冒頭に書かれているのが「既存のMASIは主観的で、評価者間のばらつきが生じやすい」でした。
そのAIの成績を見ると、臨床画像1,368枚を用いて6種類のモデルを比較し、最も成績が良かったもので、正しく判定できたのは4回に3回ほどでした。そしてもっとも判別が難しかったのは中等症です。
人が迷うところで、AIも同じように迷っています。
⑤ 重症の基準
MASIには世界共通の重症度の区切りが見当たりません。「◯点以上が重症」の設定は論文によってまちまちです。
点数の絶対値を他の施設や論文と比べても意味がありません。同じ方の経過を同じ人が追う場合にだけ、意味のある数字になります。
MASIが役に立たないという話ではありません。用途が違うだけです。集団を比べる研究では今も中心的な役割を果たしています。当院が日常の採点に用いていないのは、設計思想が診察の場面と合っていないからです。
では、見比べれば 正確なのでしょうか
治療前後を見比べる方法にも弱点があります。ここも公平に書いておきます。
美容医療では、前後を見比べて改善度を5段階で採点するGAIS(全般的改善度スケール)が広く使われています。「悪化・不変・やや改善・改善・著明改善」という段階で評価する方法で、肝斑の研究にも登場します。
監修:佐藤雅樹(ソララクリニック院長)
採点する立場で、結果が変わる
2020年、Hernandezらが興味深い研究を報告しています。対象は肝斑ではなく、ヒアルロン酸によるこめかみの治療(12名)です。同じ治療の結果を、3つの立場の人に採点してもらいました。
結果は、独立した評価者3.08、治療を行った医師4.33、ご本人4.83。治療を行った医師は、第三者より改善を高めに評価します。誰かが不誠実なのではなく、期待が知覚を動かすのです。
肝斑の研究ではありませんし、規模も小さい試験です。それでも、採点する立場によって結果が動くという現象そのものは、肝斑の評価でも同じように起こると考えられます。
またGAISについては、MASIのような専用の検証研究を確認できませんでした。肝斑に特化した指標でもありません。見比べる方法が点数化より客観的、ということはないのです。
それでも当院が画像の比較を軸にしているのは、この方法が優れているからではありません。人の知覚の性質に合っているからです。
診察の実感として、面積が全体の何割かを推し量るのは誰にとっても難しい。けれど2つを並べて違いを見つけるのは、たいていの方ができます。MASIの弱点の多くは、絶対的な量を推定させることから生まれています。比べる形にすれば、その部分は問題になりません。
そして施術者の評価が甘くなりやすいとわかっている以上、医師の判断だけで完結させるわけにはいきません。
当院での進め方
ここまでに出てきた方法を、性質ごとに並べます。どれかひとつで完結するものはありません。
MASI/mMASI
GAIS
機器による画像計測
ご本人の実感
当院では下の3つを重ねて判断しています。
監修:佐藤雅樹(ソララクリニック院長)
1. 条件を揃えた肌画像を残す
当院では初診の日、カウンセリングを始める前に肌画像診断機器(VISIA等)で撮影しています。ご来院いただいた方には全員に行っていますので、あらためてお申し出いただく必要はありません。この画像を見ながら、お話を始めます。
同じ機器・同じ距離・同じ照明で撮ることで、窓の明るさや洗面所の照明といった条件差を取り除きます。
「良くなった気がする/悪くなった気がする」を、条件の揃った記録に置き換えるための工程です。
なお紫外線を使った撮影では、肉眼ではまだ見えていない浅い層の色素が映ることがあります。見通しを考えたり遮光の必要性をご説明したりするうえで有用ですが、いまの重症度とは別の情報という位置づけです。
撮影に使う機器は 肌診断機器の紹介 をご覧ください
2. 前後を並べて、ご自身の目で見ていただく
診察では記憶に頼らず、治療前の画像と現在の画像を並べてご覧いただきます。医師の説明を聞くだけでなく、ご自身の目で確かめていただきたいのです。
そしてここが大事なのですが、画像で明らかに変わっていても、ご本人が気づいていないことが多々あります。毎日ご自身の顔を見ているのですから、当然のことです。「言われてみれば」と気づいていただける場面が、実際によくあります。
施術した医師の評価は高めに出やすい。その前提に立つなら、こうするのが筋だと考えています。
3. 実感もあわせてうかがう
一方で、画像が拾えないものもあります。評価スコアと満足度は、必ずしも一致しません。
2025年、ブラジルのGalacheらの臨床研究でも、MASIにはっきりした変化が出なかった一方、生活の質は改善していたという結果が示されています(規模の小さい試験なので、解釈には限界があります)。
画像では薄くなっていても、まだ気になるということもあります。どちらも治療方針を見直す材料です。
これらを重ねても、判定はあくまで暫定的なものとして扱っています。肝斑には季節による変動があり、夏場は治療がうまくいっていても濃く見えることがあります。1〜2回の診察の印象で是非を決めず、経過を追いながら判断します。
お願いしたいこと
すでに何か始めている場合は、お知らせください。市販薬やサプリメント、他院での治療も含めてです。その場合、当院で撮る最初の1枚は「治療前」ではなく「途中経過」になります。いつから何をしているかがわかると、画像の読み方が変わります。
短い期間で判断しないでください。肝斑の変化はゆっくりです。数週間で結論を出そうとすると、その時々の見え方の揺れに振り回されます。
「濃くなった気がする」も教えてください。言いにくいことかもしれませんが、実際に濃くなっている場合もあれば、季節や刺激による一時的な変動のこともあります。どちらにせよ方針を見直す手がかりになります。肝斑は摩擦や紫外線で悪化しますので、日々のスキンケアの見直しが必要になることもあります。
ご予約・お問い合わせ
この分野の現在地
ここまでMASIの弱点を並べてきました。これらは世界中で認識されていて、手も打たれています。ただ、その後どうなったかまで見ると、話はもう少し複雑です。
改良版は提案された。そして広まらなかった
2016年、インドのMajidらがMSI(Melasma Severity Index)という改良版を提案しました。
着眼点は、MASIの重みづけの歪みです。面積は0〜6の7段階、濃さと均一性は0〜4の5段階。面積の比重が大きすぎるため、「濃いが狭い」方より「薄いが広い」方のほうが高得点になってしまう。原著には、臨床的に明らかに重症な症例のMASIが10.8、軽症に見える症例が24.9という実例が載っています。
そこでMSIは濃さを2乗して比重を移しました。区画も、右・左・鼻の3つに変えています。鼻を独立させたのは、鼻は他の部位より濃く、治療に反応しにくいことが多いのに、MASIでは頬に含まれてしまい別々に採点できないからでした。
成績は良好でした。訓練を受けた4名が30名を採点した検証で、評価者間の一致を示す数値はMSIが0.955、mMASIが0.816。メキサメータと画像解析ソフトによる客観データとの相関も、MSIのほうが良好です。
それでも、標準は変わりませんでした
提案から10年。医学文献を数えると、2017年以降にMASIを使った論文は376編あるのに対し、MSIを実際に使った論文は、確認できた範囲で2編です。
それどころか、「Melasma Severity Index」という名前がMASIの略称の展開を間違えたものとして使われている論文が複数あります。名前だけが独り歩きして、中身は従来どおり、という状態です。
より理にかなった物差しが提案され、数字の上でも優れていた。それでも現場の標準は動かなかった。物差しを変えるのは、物差しを作るよりはるかに難しいということだと思います。
皮膚の中を、切らずに見る技術
もうひとつの流れが、皮膚の内部を画像で見る技術です。
RCM(反射型共焦点顕微鏡)は、皮膚を切り取らずに表皮と真皮浅層を観察できます。2010年にイタリアのArdigoらが、肝斑の分類し直しや治療経過の追跡に使えると報告しました。2025年には中国から、130名でRCMと二光子顕微鏡(TPM)を比べ、TPMは表皮メラニン量から重症度を、RCMは真皮の炎症細胞から活動性を反映する、という役割分担を示した研究も出ています。
ただし、これを日常の診察に持ち込めるかというと、率直に申し上げて距離があります。
技術と診療のあいだにある距離
見える範囲がとても狭いこと。RCMの1回の視野は0.5mm角です。複数枚をつなぎ合わせても8mm角まで。頬全体は数センチ角ですから、桁が違います。深さも0.1〜0.2mm、真皮の浅い層までです。
時間と訓練がかかること。撮影と読影で数分から1時間。読影ができるようになるには4〜6か月、数千症例の訓練が必要とされ、装置も大きく高価で、主に大学病院などに置かれているのが現状です。
そして、肝心の深部が読みにくいこと。RCMの画像は単一波長の白黒で、メラノファージ(色素を取り込んだ細胞)とリンパ球を見分けられないと報告されています。読影者間の一致度も、深い層ほど下がることが知られています。
肝斑での研究規模も、最大で210例(うち組織で確かめたのは10例)のパイロット研究にとどまり、治療経過を追った研究は6〜30例です。2024年の系統的レビュー自身が、美容領域への応用を「emerging(出てきつつある段階)」と表現しています。
そもそも肝斑は、色素が溜まっただけの状態ではありません。2025年に世界各地の専門家がまとめた国際コンセンサスでも、色素疾患の管理ではメラノサイトだけでなく、周囲の線維芽細胞・肥満細胞・血管といった環境まで対象にする必要があると指摘されています。
深部の色素をどれだけ精密に測れても、それだけで全体像がつかめるわけではないということです。
費用の面も避けて通れません。こうした検査に公的な裏づけがある国でも、その根拠は皮膚がんの良性・悪性の見分けに置かれています。良性の色素疾患のために同じ検査を行う経済的な根拠は、いまのところ示されていません。
見えることと、その情報が治療を変えることは別です。深部の色素が精密にわかったとして、肝斑の治療方針がそれで大きく変わる場面がどれだけあるか。ここが示されない限り、費用に見合う検査とは言いにくいと考えています。
AIによる自動化
先ほど触れたZhangらのように、画像から重症度を自動判定する研究は進んでいます。
2025年には中国から、携帯型のOCT(光干渉断層計)と深層学習を組み合わせた研究も出ました。手持ちプローブで撮影した断層画像から、健常な肌・肝斑・その周囲を94.2%の精度で判別し、治療後の評価にも使えたとしています。
これらに共通しているのは、「印象で語る」から「測って追う」へという方向です。ZhangらのAIは既存の採点の主観性を出発点にしていますし、Caoらは診断だけでなく治療後の評価まで視野に入れています。向かっている先は、はっきりしていると思います。
興味深いのは、この分野の見通しを分けるのが判定精度よりも機器のほうらしいことです。RCMの総説には、小型で安価で扱いやすい新しい世代の機器が現れない限り、普及の飛躍は起きないと書かれています。携帯型OCTのような方向に芽があるとすれば、そこだと思います。
そのうえで、当院の立場をはっきりさせておきます。こうした技術が担うのは、あくまで判断の材料です。最終的にどうするかは、目の前の方と話しながら医師が引き受ける仕事だと考えています。数字が出せるようになっても、そこは変わりません。
いまの当院にとっての意味
ここで挙げたものは、どれも今日の診察室にそのまま持ち込めるものではありません。MSIは提案から10年たっても広まらず、RCMやTPMは研究機関の設備です。
それでも、この分野が「見た目の印象で語る」から「数値で追う」へ動こうとしていることは確かです。当院が条件を揃えた画像を撮り続けているのは、その流れに乗れる記録を、いまから残しておくという意味でもあります。
おわりに
肝斑の治療で、短期間に劇的な変化が起きることはまれです。だからこそ「変わったかどうかを、後から確かめられる形にしておく」ことを大切にしています。
点数がすべてを教えてくれるわけではありません。けれど、記録がなければ何も確かめられない。診察室でできるのは、確かめられる材料をきちんと残しておくことだと考えています。
参考文献
肝斑に対する外用トレチノインの比較試験(MASIの原典・アフリカ系の方が対象)
原題: Topical retinoic acid (tretinoin) for melasma in black patients. A vehicle-controlled clinical trial
出典: Archives of Dermatology, 1994;130(6):727-733
PMID: 8002642
要約:
肝斑に対する外用トレチノインの効果を、基剤対照で40週間にわたり検証した無作為化比較試験です。対象はアフリカ系アメリカ人30名で、原題にも「in black patients」とあります。スキンタイプ(Fitzpatrick分類)の記載は論文にありません。なお本論文は、同様に集めた白人の対象者と比較して、参加者では肝斑の発症年齢が遅く、頬骨部の分布をとりやすかったと報告しています。同じ肝斑でも集団によって出方が異なることを、著者ら自身が記録している点で重要です。MASIが日本人の肌を想定して作られた指標ではないことを示す前提として引用しています。この論文の中で、著者らが自ら考案した評価法として MASI(Melasma Area and Severity Index)が初めて用いられました。現在世界で使われている MASI の原典にあたる文献です。論文中でも「our Melasma Area and Severity Index(我々の肝斑面積・重症度指数)」と記述されており、独立した尺度としてではなく、この試験のために作られた指標が後から標準化されたという経緯がわかります。
MASIの信頼性・妥当性の検証と、改良版mMASIの提案
原題: Reliability assessment and validation of the Melasma Area and Severity Index (MASI) and a new modified MASI scoring method
出典: Journal of the American Academy of Dermatology, 2011;64(1):78-83
DOI: 10.1016/j.jaad.2009.10.051
要約:
標準化された訓練を受けた6名の評価者が、軽症から重症までの肝斑のある方21名を2日にわたり1日1回ずつ採点し、MASI の評価者内・評価者間の信頼性を検証した研究です。MASI は信頼性・妥当性ともに良好でしたが、3項目のうち「均一性」の評価者間一致がもっとも低く、この項目を除いても信頼性は損なわれないことが示されました。この結果をもとに、均一性を除いた mMASI(modified MASI)が提案されています。対象はヒスパニック系・アフリカ系・アジア系に限られる点が限界として挙げられています。
mMASIの信頼性・妥当性と、経時変化を捉える感度の検証
原題: Reliability, Validity, and Sensitivity to Change Overtime of the Modified Melasma Area and Severity Index Score
出典: Dermatologic Surgery, 2017;43(2):210-217
DOI: 10.1097/DSS.0000000000000974
要約:
mMASI について、信頼性・妥当性に加えて「治療による変化を捉えられるか(経時変化への感度)」を検証した研究です。mMASI は良好な信頼性と妥当性を示し、治療前後の変化にも反応することが確認されました。また従来の MASI と高い一致を示しながら、習得も計算もより容易であることが報告されています。
評価する立場によって改善度の採点が変わることを示した研究(対象は肝斑ではありません)
原題: Clinical validation of the temporal lifting technique using soft tissue fillers
出典: Journal of Cosmetic Dermatology, 2020;19(10):2529-2535
DOI: 10.1111/jocd.13621
要約:
本研究の対象は肝斑ではなく、ヒアルロン酸によるこめかみの治療(12名)です。治療前後の改善度を、5名の評価者による採点と三次元画像解析で検証しています。治療3か月後の全般的改善度スケール(GAIS)による評価は、治療に関与していない独立した観察者で3.08、治療を行った医師で4.33、ご本人で4.83と、採点する立場によって結果が分かれました。本ページでは、治療効果そのものではなく「評価者の立場が採点結果に影響する」ことを示す例として引用しています。
深層学習を用いた肝斑重症度分類の試み
原題: Deep Learning-Based Multiclass Framework for Real-Time Melasma Severity Classification: Clinical Image Analysis and Model Interpretability Evaluation
出典: Clinical, Cosmetic and Investigational Dermatology, 2025;18:1033-1044
DOI: 10.2147/CCID.S508580
要約:
肝斑と診断された方の臨床画像1,368枚を用いて、重症度を自動判定する深層学習モデルを開発した研究です。論文の冒頭で、既存の MASI が主観的で評価者間のばらつきが生じやすいことが、本研究の動機として明記されています。臨床画像1,368枚を用いて6種類のモデルを比較し、最も成績が良かったもので正解率0.755、判別能を示す AUC は軽症0.93・中等症0.86・重症0.94であり、中等症の判別がもっとも難しいという結果でした。指標をより客観的にしようとする試みが現在も続いていることを示す文献です。
肝斑治療の比較試験:スコアは動かず、生活の質は改善した例
原題: Amber LED photobiomodulation versus tranexamic acid for the treatment of melasma: randomized controlled double-blind pilot trial
出典: Lasers in Medical Science, 2025;40(1):313
DOI: 10.1007/s10103-025-04567-9
要約:
肝斑に対する2つの治療法を12週間比較した無作為化二重盲検試験です。MASI および医師による全般評価には群内・群間ともに有意な変化が認められなかった一方で、対象者の生活の質は両群で改善しており、患者立脚型の評価を併用する重要性が指摘されています。なお本試験は早期終了により検出力が不足したパイロット試験と著者ら自身が位置づけており、試験期間中の記録的な高温が結果に影響した可能性にも言及されています。なお本試験で用いられたトラネキサム酸は外用(5%リポソーム型)であり、内服とは条件が異なります。治療効果の比較としてではなく、評価指標のあり方を示す例として引用しています。
鼻を区画に含めた改良版スコア「MSI」の提案
原題: Proposing Melasma Severity Index: A New, More Practical, Office-based Scoring System for Assessing the Severity of Melasma
出典: Indian Journal of Dermatology, 2016;61(1):39-44
要約:
MASIをより実用的にすることを目的に、MSI(Melasma Severity Index)を提案した研究です。顔を右・左・鼻の3区画に分け、色素の濃さを2乗して重みづけします(0.4×面積×濃さ²を左右、0.2を鼻)。MASIでは区画に含まれていなかった鼻が、正式な区画として加えられている点が特徴です。訓練を受けた4名の皮膚科医が30名を採点した結果、評価者間の一致を示す級内相関係数はMSIが0.955、MASIが0.816でMSIが有意に良好でした。メキサメータおよびImageJによる客観データとの相関も、すべての評価者でMSIのほうが高い値を示しています。ただし著者ら自身が、対象が単一の民族集団であった点を限界として挙げています。
反射型共焦点顕微鏡(RCM)による色素分布の評価と治療経過の追跡
原題: Characterization and evaluation of pigment distribution and response to therapy in melasma using in vivo reflectance confocal microscopy: a preliminary study
出典: Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 2010;24(11):1296-1303
DOI: 10.1111/j.1468-3083.2010.03633.x
要約:
顔面の肝斑と診断された15名を対象に、反射型共焦点顕微鏡(RCM)で色素の分布を評価した先行的研究です。従来はウッド灯で表皮型・真皮型・混合型に分類されてきましたが、RCMのほうが色素の位置と広がりをより正確に把握でき、分類し直せる可能性が示されました。皮膚を切り取らずに観察できるため、7名では治療経過の追跡にも用いられ、治療反応だけでなく副作用の発生を捉える手段としても有用である可能性が示唆されています。
二光子顕微鏡と反射型共焦点顕微鏡の比較 ── 重症度と活動性で役割が異なる
原題: Noninvasive Assessment of Melasma Pathological Features: Side-By-Side Comparison of Two-Photon Microscopy and Reflectance Confocal Microscopy
出典: Pigment Cell & Melanoma Research, 2025;38(6):e70057
DOI: 10.1111/pcmr.70057
要約:
肝斑のある130名を対象に、二光子顕微鏡(TPM)と反射型共焦点顕微鏡(RCM)を同一対象で比較した横断研究です。表皮メラニンの増加、表皮真皮境界部の活性化したメラノサイト、平坦化した表皮突起の検出において両者は高い一致を示しました。役割は異なり、TPMは表皮メラニン量の定量により重症度を、RCMは真皮の炎症細胞の検出により疾患の活動性を反映するとされています。切らずに病理学的な特徴を評価する手段として、両者を使い分ける可能性を示した報告です。
反射型共焦点顕微鏡の技術的制約と普及の課題(総説)
原題: Reflectance Confocal Microscopy of Skin In Vivo: From Bench to Bedside
出典: Lasers in Surgery and Medicine, 2017;49(1):7-19
DOI: 10.1002/lsm.22600
要約:
RCMの原理から臨床応用までを扱った総説です。1回の視野は0.5×0.5mm、モザイク化しても最大8×8mm、深達度は約100〜200μm(真皮乳頭層まで)と明記されています。撮像と読影には数分から1時間を要し、正確に読影できる医師の数は「少ない(small)」とされ、相当の訓練投資が必要と述べられています。単一波長のグレースケール画像であるため、メラニンとケラチンの区別、およびメラノファージとリンパ球の区別が困難である点も明示されています。米国のCPTコード(96931〜96936)は病変単位で設定され、その根拠となったエビデンスはいずれも良性・悪性の鑑別に関するものです。装置は「大きく高価で扱いにくく、主に三次医療機関に限られている」とされ、普及の飛躍には小型・低コスト・簡便な新世代機器が必要と結論づけています。
肝斑に対する反射型共焦点顕微鏡の応用(系統的レビュー)
原題: Reflectance confocal microscopy in melasma: a systematic review
出典: International Journal of Dermatology, 2024;63(8):1007-1012
DOI: 10.1111/ijd.17117
要約:
肝斑におけるRCMの応用を対象とした系統的レビューです。皮膚がんへの応用が中心であった時代を経て、肝斑の治療モニタリングなど美容領域への応用がemerging(出現しつつある段階)であると位置づけられています。確立した標準的手法としてではなく、探索段階の技術として整理されている点が、本ページで参照した理由です。
携帯型OCTと深層学習による肝斑の診断・治療後評価
原題: Diagnosis and Post-Treatment Follow-Up Evaluation of Melasma Using Optical Coherence Tomography and Deep Learning
出典: Journal of Biophotonics, 2025;18(6):e70006
DOI: 10.1002/jbio.70006
要約:
手持ちプローブを備えた携帯型のスペクトラルドメインOCTを開発し、深層学習(空間注意機構を加えたVGG16)と組み合わせて肝斑を判定した研究です。健常者の皮膚、肝斑病変、肝斑周囲組織の3群を94.2%の精度で判別し、同じモデルが抗血管薬による治療の評価にも適用できたと報告されています。据置型の大型装置ではなく携帯型で行われている点で、普及の現実性という観点から注目される報告です。なお症例数は抄録に記載がありません。
色素性疾患の管理に関する国際コンセンサス(メラノサイトだけでなく周囲の環境も対象に)
原題: Global consensus on the management of melanin hyperpigmentation disorders
出典: Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 2025;40(5):760-772
DOI: 10.1111/jdv.70185
要約:
アフリカ・アジア・欧州・南北アメリカの色素性疾患の専門家10名が、Delphi法により肝斑を含むメラニン色素沈着症の管理指針をまとめた国際コンセンサスです。スキンタイプ・光生物学的性質・重症度・地域ごとの治療へのアクセスを踏まえた治療アルゴリズムが提示されています。本ページとの関連で重要なのは、有効な管理にはメラノサイトだけでなく、周囲の皮膚微小環境(線維芽細胞・肥満細胞・血管成分)にも対処する必要があると明記されている点です。肝斑を「溜まった色素」としてのみ捉えることの限界を示す根拠として引用しています。なお共著者のSeemal R. Desai氏は米国皮膚科学会の元会長です。
※本ページで紹介した評価指標は、いずれも研究上の測定方法に関する情報です。特定の治療の効果を示すものではありません。治療の適応・方針は診察のうえで個別に判断いたします。
ご予約・お問い合わせはこちら
ソララクリニック
お電話でのご予約022-722-7090 お問い合わせフォームはこちら
ご予約は電話にて承っております。
フォームからはご相談・ご質問を受け付けています。
※「HPの記事を見た」とお伝えいただけるとスムーズです
監修者情報(医師紹介)

監修医師:佐藤 雅樹 (さとう まさき)
ソララクリニック 院長
専門分野:美容皮膚科
2000年 順天堂大学医学部卒。順天堂大学医学部形成外科入局。 大学医学部付属病院等を経て、都内美容皮膚科クリニックにてレーザー治療の研鑽を積む。2011年3月 ソララクリニック開院 院長就任。2022年 医療法人 松柴会 理事長就任。日本美容皮膚科学会 日本形成外科学会 日本抗加齢医学会 日本レーザー医学会 点滴療法研究会 日本医療毛髪再生研究会他所属。
様々な医療レーザー機器に精通し、2011年ルビーフラクショナル搭載機器を日本初導入。各種エネルギーベースの医療機器を併用する複合治療に積極的に取り組む.
最終更新日
更新履歴
2026-07-20 新規公開