選択的光熱分解(融解)理論とはSelective Photothermolysis

レーザーが狙ったものだけを壊せる理由を、
波長・パルス幅・熱緩和時間から。

選択的光熱分解理論とは、レーザー光を「適切な波長」「適切なパルス幅」「適切なエネルギー密度」で照射することで、標的とする組織だけを壊し、周りへの熱の影響を抑えるという考え方です。

シミ取りでも、脱毛でも、赤ら顔の治療でも、機械を選ぶときに見ているのは、この3つの組み合わせです。このページは、診察でご説明している内容を文章にしたものです。検索して読みに来る方より、外来で説明を聞いて帰られた方に向けて書いています。

先に知りたい方へ

当院の機器の使い分け →理論だけでは決まらないこと →

※Selective Photothermolysis=「選択的光熱分解理論」または「選択的光熱融解理論」と日本語訳されます。より詳しく

Photothermolysis= photo()+ thermo()+ lysis(分解・破壊)の合成語なので、「光熱分解」のほうが語源的に正しく学術領域で使用されることが多いですが、美容領域では「光熱融解」の用語が使われることが多いです。当院では語源に沿って「分解」を主に用い、検索で使われることの多い「融解」を併記しています。

選択的光熱分解とは?その基本理論と歴史背景

選択的光熱分解(Selective Photothermolysis)とは、特定の波長・パルス幅(照射時間)・エネルギー密度を組み合わせて、標的とする組織だけに光を吸収させ、熱変性(分解)を起こさせるレーザーの理論です。

この理論を読み解くのに要る言葉は、2つだけです。クロモフォア(何が光を吸収するのか)と、熱緩和時間(どれだけの時間で熱が逃げるのか)。この2つが決まれば、「どの波長を、どれだけの時間だけ当てるか」が決まります。順に見ていきます。

メラニン・ヘモグロビン・水の吸収スペクトルと、当院および関連機器が使う波長(532・675・694・785・1064・1726・

クロモフォア|何が光を吸収するのか

クロモフォア(chromophore)とは、光を吸収する物質のことです。皮膚のレーザー治療で標的になるクロモフォアは、実質的に3つしかありません。

  • メラニン:シミ・そばかす・アザ・毛。短い波長ほどよく吸収し、波長が長くなるほど吸収は下がっていきます
  • ヘモグロビン:赤ら顔・毛細血管拡張・血管腫。おおよそ 418nm・542nm・577nm 付近に吸収の山があります
  • :皮膚全体。1400nm を超えたあたりから急に強く吸収されるようになり、2940nm(Er:YAG)や 10600nm(CO2)では表面で吸収されきります

波長を選ぶという作業は、この3つのうちどれに吸収させ、どれに吸収させないかを決める作業です。

たとえば 694nm のルビーレーザーは、メラニンによく吸収される一方で、ヘモグロビンにはあまり吸収されません。だから色素だけを狙いやすい。逆に 532nm はメラニンにもヘモグロビンにも吸収されるので、シミにも赤みにも反応します。

そして近年は、この3つ以外を標的にする試みも出てきました。後の章で触れる皮脂がその例です。

熱緩和時間(TRT)|どれだけの時間で熱が逃げるか

熱緩和時間(Thermal Relaxation Time/TRT)とは、加熱された組織が周囲に熱を逃がして、あたためられた分の温度がおよそ3分の1(37%)まで下がるまでにかかる時間のことです。

この時間は標的の大きさと性質で決まり、おおむね直径の2乗に比例します。標的が2倍大きくなると、冷めるまでの時間は4倍。

レーザーのパルス幅がこの時間より短ければ、熱が逃げる前に照射が終わります。これを熱閉じ込め(thermal confinement)といい、標的の内部だけが十分に加熱されて、周囲は温まりません。

標的が小さいほど TRT は短く、要求されるパルス幅も短くなります。

  • メラノソーム(メラニン顆粒・約0.5〜1μm)… およそ数百ナノ秒。だからQスイッチ(ナノ秒)やピコ秒が必要になります
  • 細い血管(約0.1mm)… およそ10ミリ秒
  • 毛包(0.2〜0.3mm)… 数十〜数百ミリ秒。脱毛のパルス幅がミリ秒単位なのはこのためです

パルス幅と熱が広がる距離の関係を示した図。300ピコ秒では1マイクロメートル未満、1ミリ秒で数十マイクロメートル、60秒では数ミ

標的の直径と熱緩和時間の関係を示した図。直径の2乗に比例し、メラノソーム0.5〜1μmで約1マイクロ秒、細い血管0.1mmで約1

この「標的が大きいほど、必要なパルス幅も長くなる」という関係が、当院に複数のレーザーがある理由そのものです。後の章でもう一度出てきます。

ただし、この考え方がそのまま当てはまらない標的もあります。毛がその例です。

毛は色素がある場所(毛幹)と、壊したい場所(毛包)がずれています。色素で生じた熱が拡散して届くまでに、時間が要ります。この場合、治療に適したパルス幅は TRT より長くなります。これが2001年に示された拡張理論ETSP)です(参考文献2)。

実験では、毛包の損傷範囲が 30〜400ミリ秒という広い範囲でほとんど変わりませんでした。

1983年に何が変わったか

この2つを組み合わせた考え方は、1983年に米国ハーバード大学のR.R.ロックス・アンダーソン博士とJ.A.パリッシュ博士が提唱し、科学誌「Science」に発表されました(参考文献1)。

標的の色素がよく吸収する波長を選び、その標的が熱を逃がすより短い時間だけ照射する。それだけで、狙いを正確に定めなくても、色素を持つ構造だけに損傷を起こせる。これがこの論文の主張です。

この考え方が出るまで、レーザーは「当てたところを焼く」道具でした。狙いを外さないことが術者の腕次第だったところに、波長と時間を選べば、標的のほうが選ばれるという道筋が生まれます。それまで難しかった赤あざ・入れ墨・シミの治療が動きはじめたのは、ここからです。具体的な機器は、次の章で見ていきます。

標的がよく吸収する波長」と「標的の熱緩和時間よりも短いパルス幅」。この2つで照射するというコンセプトが、レーザー治療の組み立て方そのものを変えたのです。

選択的光熱分解がもたらしたレーザー治療の進歩

この章でわかること:血管・毛・シミという別々の治療が、なぜ同じ理論で説明できるのか。

選択的光熱分解の理論に基づき、1980年代以降さまざまな医療用レーザーが開発されました。

血管と毛には、ミリ秒のパルス幅を

血管病変治療では、前述のパルス色素レーザー(585nm前後)などが代表です。この「色素」は装置の中で光を出すために使う色素のことで、肌の色素とは別のものです。血液中のヘモグロビンを標的に短パルスで照射し、赤ら顔や毛細血管拡張症、血管腫などを改善します。

脱毛レーザーが標的にするのは、毛のメラニンです。アレキサンドライトレーザー(755nm)、ダイオードレーザー(810nm)、長パルスNd:YAGレーザー(1064nm)などが使われます。

ここでのパルス幅の選び方には、はっきりした基準があります。表皮の熱緩和時間(約10ミリ秒)より長く、毛根・毛包の熱緩和時間(数十〜数百ミリ秒)より短く。この幅に収めると、毛根だけを壊して周囲の火傷を避けられます。

Qスイッチの登場で、色素が狙えるようになった

色素性病変治療では、Qスイッチレーザーの登場が画期的でした。Qスイッチとはナノ秒(10-9秒)台の超短パルスを発振する技術で、1980〜90年代にルビーレーザー(694nm)やNd:YAGレーザー(1064nm、および周波数を2倍にした532nm)に応用されました。

この超短パルスによりメラノソームや刺青インク粒子の熱緩和時間より短い照射が可能となり、粒子内部で急激に温度を上げ破裂させることができます。周囲組織への熱拡散がほとんど起こらないため、周囲の瘢痕化を抑えながら色素斑を狙う照射ができるようになりました。

この現象はしばしば「光音響効果(photo-acoustic effect)」とも呼ばれ、特に刺青除去ではインク粒子の破砕とマクロファージによる除去を促進します。

フラクショナルレーザーへの発展

2000年代に入ると、選択的光熱分解の応用としてフラクショナル・フォトサーモリシス(Fractional Photothermolysis)の概念が登場しました。これはレーザー光を極小ドット状に分割し、皮膚の一部の点だけにマイクロレベルの熱損傷を与える手法です。

点在する「微小治療ゾーン(MTZ)」だけがレーザーで破壊され、周囲の正常組織が残ります。そのぶん治りが早くなります。

2004年にMansteinらが発表したこの技術(参考文献3)から、フラクショナルCO2レーザーやフラクショナルEr:YAGレーザーが生まれ、肌の若返りやニキビ跡治療の選択肢が広がりました。

原著では、直径約100μmの微小治療ゾーンが深さ約300μmまで届き、再上皮化は1日以内に完了したと報告されています。

フラクショナルレーザーは皮膚表面に無数の微小な穴(熱損傷柱)を開け、コラーゲンの再生を促進しつつダウンタイムを短縮できます。

この考え方は、後の章で扱うピコ秒レーザーとルビーフラクショナルにも入っています。ただし点の作り方は機器ごとに違います。同じ「フラクショナル」でも、中身は同じではありません。

皮脂腺を標的とするレーザー治療

選択的光熱分解の理論は、メラニン・ヘモグロビン・水以外のクロモフォアにも広がりつつあります。その一つが皮脂です。

ニキビ(尋常性ざ瘡)ができる主な要因の一つは皮脂腺からの過剰な皮脂分泌ですが、従来レーザーでは、アクネ菌を減らす光治療や炎症を抑える血管レーザーのように、間接的なアプローチしかありませんでした。そこで皮脂そのものを標的に選ぶという発想が出てきます。

皮脂の吸収スペクトルを調べた2012年の研究(参考文献4)で、1710〜1720nm 付近で皮脂が水より強く光を吸収することが示されました。この波長帯を使えば、皮脂腺にエネルギーを集めながら、周囲の水分への影響を抑えられる。

これが 1726nm レーザーの出発点です。米国では2022年以降にこの波長の装置が承認され、日本国内でも2025年に薬機法上の承認を受けた機器が登場しました。

2025年に報告された試験(参考文献5)では、3か月後の炎症性ニキビ病変数が平均71%減少し、治療後の生検組織では表皮と真皮の構造を保ったまま深部の皮脂腺だけが変性していたことが示されています。皮脂腺そのものに働きかけるという点で、従来の対症療法とは考え方が異なります。

もっとも、この治療が成り立っているのは波長を選んだからだけではありません。その事情は次の章でご説明します。なお当院では現在この機器を導入していません。

そしてもう一つ、従来の3つのクロモフォアの枠に、きれいには収まらない波長も出てきています。

近年出てきた 675nm は、この枠に収まらない波長です

675nm のレーザーは「コラーゲンを標的とする」と説明されます。ただし上の図のとおり、675nm に3つのクロモフォアの吸収の山はありません。

コラーゲンは線維の網目で、メラノソームのような「粒」ではありません。熱緩和時間も定義されていません。総説はこの治療を低出力レーザー治療(LLLT)に分類しており、選択的光熱分解とは機序の説明が異なります(参考文献10)。

この波長の機器も、当院にはありません。理論の枠に収まらない新しい波長が出てきていることを、ここでは事実として記しておきます。

選択性は、波長だけでは決まらない

この章でわかること:理論のとおりに波長とパルス幅を決めても、まだ決まらないことが3つあります。

ここまでは「どの波長を、どれだけの時間だけ当てるか」という話でした。理論としてはこれで足ります。

ただ実際の治療では、この2つが決まってもまだ決まらないことが3つ残ります。冷却・終点・出力です。この3つは論文の図には出てきませんが、照射する側から見ると、結果を左右する度合いは波長やパルス幅に劣りません。

1. 冷却|表皮を守る側の設計

標的に届くまでに、光は必ず表皮を通ります。そして表皮にもメラニンがあります。波長を選んだだけでは、表皮を素通りさせることはできません。

だから多くのレーザーは、冷却と組み合わせて使われます。脱毛では表皮を冷やしながら毛根に高いエネルギーを入れます。冷却がなければ、同じ設定は火傷になります。

この性格がいちばんはっきり出ているのが、1726nm のニキビ治療機器です。皮脂腺は真皮の中層から深層にあり、1726nm は水にもある程度吸収されます。波長を選んだだけでは、そこまで届きません。

そこで実用化されている装置は、表皮を冷やしながら照射します。冷却したサファイア窓を肌に当てる接触冷却を使うものと、強い送風で冷やすもの。方式は違いますが、ねらいは同じです。

照射のしかたも変わりました。1発で高出力を当てるのではなく、目標とする組織温度に達するまでパルスを重ねていく。ハンドピースに赤外線カメラを内蔵し、表皮の温度を測りながら出力を自動で調整する装置まで出てきています(参考文献5)。

よく見かける「メラニンの26倍」という説明について

日本語の解説記事では「1726nm は皮脂に、水の約2倍・メラニンの約26倍吸収される」と書かれていることがあります。当院もこのページで長くそう書いていました。訂正します。

原典にあたると、確認できるのは水との比較だけです。生体内の皮脂で水の約1.2倍、皮脂腺の加熱で水の約1.5倍(人工的に調製した皮脂では約2倍/参考文献4)。メラニンとの比較は、この研究では測られていません。

それどころか、装置メーカーが公開している吸収係数では、1727.5nm における値はメラノソームが約 11.0 cm-1、皮脂が約 10.3 cm-1とされており、メラノソームのほうがわずかに高い数字になっています。

つまり、この波長が肌の色を問わず使えるのは「メラニンに吸収されないから」ではありません。短い波長に比べればメラニンの吸収がずっと小さく、そのうえで表皮を冷却し、温度を測りながら照射しているからです。

波長の選択と冷却の設計は、切り離せません。この章の主題そのものが、1726nm という波長にはよく表れています。

2. 終点|当たったかどうかが、その場で見えるか

レーザーには、照射した瞬間に反応が見える機器と、見えない機器があります。この違いは、実際の照射の進め方をかなり変えます。

機器ごとの照射直後とその後の反応を比べた図。532nmははっきり白変してから濃く見え、785nmは淡い白変から少し濃く、ルビーフ

当院での見え方

532nm は反応がはっきり出ます。狙ったところが白く変わる(フロスティング)のが見えるので、当たったかどうかがその場で分かります。切れ味という点ではこちらが上です。

785nm では、そこまで強い反応を出さず、淡くフロスティングが出る程度でとどめることがあります。効果の出方は 532nm より穏やかになりますが、その代わり炎症後色素沈着(PIH)が起きる確率は 532nm のピコより低くなります。

ルビーフラクショナルには、その場で見える終点がありません。照射した直後にフロスティングは出ず、少し遅れて赤みが出てきます。打ち漏らしがないかは、この赤みでおおよそ見当がつきます。

ただし赤みがあまり出ない方もそれなりにいらっしゃるので、赤みを頼りに追加照射をすることはしません。結局、頼りになるのは照射の正確さだけです。

同じ選択的光熱分解に基づく治療でも、終点が見える機器と、見えない機器があります。見えない機器では、理論どおりに当たっているかどうかを、術者の手技で担保することになります。当院でレーザーの照射をすべて医師が行っているのは、この違いがあるためです。

この「照射直後に見える反応」は、海外では臨床エンドポイントとして体系的に整理されています。そのなかにはエンドポイントのない治療という類型もあります(参考文献8)。

対になる論文では、メーカーの設定どおりに当てるだけの照射について、「その方法だけに頼るのは、災いを招くやり方になりうる」とまで書かれています(参考文献9)。

この2本の最終著者は、1983年に選択的光熱分解理論を提唱した Anderson 本人です。理論を作った側が、理論だけでは足りないと書いている。

3. 出力|同じ波長でも、設定で結果が変わる

波長とパルス幅が同じでも、1回に入れるエネルギーが違えば、効き方も痛みも変わります。そしてこの設定は、機器ごと・病変ごとに変えています。

当院での見え方

当院には、波長を変えずにパルス幅だけを自由に動かせるシミ用のレーザーはありません。近いのは、532nm をナノ秒(Qスイッチ)で照射する機器と、ピコ秒で照射する機器を両方持っていることです。同じようなシミに当てたとき、痛みの訴えはピコ秒のほうが少ない印象があります。

ただし、これを「パルス幅が短いから痛くない」と読むのは早いと考えています。ピコ秒では1回に入れるエネルギー自体を下げて使うため、条件がそろっていません。痛みの差がパルス幅の差なのか、出力設定の差なのかは、この比べ方では分けられません。

論文で「この波長のこのパルス幅が有効だった」と読んだとしても、そこには必ず出力・スポットサイズ・冷却の条件がついています。条件を揃えずに機器どうしを比べるのは、実際にはかなり難しいことです。これは治療を受けられる方にも、知っておいていただきたいと思っています。

当院のレーザー機器と選択的光熱分解理論の関係

この章でわかること:なぜ1台では足りないのか。どの機種を、何を基準に選んでいるのか。

当院に複数のレーザーがあるのは、理由が2つあるからです。

1つめは、標的の大きさ。メラニン顆粒は1マイクロメートルより小さく、血管は0.1ミリ、毛包は0.3ミリ。冷めるまでの時間(熱緩和時間)は、それぞれ数百ナノ秒・約10ミリ秒・数十〜数百ミリ秒と4桁ほど違います。

必要なパルス幅もそれだけ変わるので、シミ用の機器と、血管や毛を扱う Fotona SP Dynamis は別の機械になります。

2つの理由で、機械が分かれる

2つめは、色素のある深さ。シミ用の機器が3台に分かれているのは、こちらの理由です。標的の大きさはどれもメラニン顆粒で同じですが、色素がどの深さにあるかで、届かせるべき波長が変わります。532nm・694nm・785nm・1064nm と波長が長くなるほど、光は深くまで届きます。

当院の機器をパルス幅の長さで並べると、1つめの理由がそのまま見えます。シミ用の3台はどれもピコ秒〜ナノ秒に収まり、Fotona SP Dynamis だけがマイクロ秒から60秒までと、けた違いに長いところにいます。

標的の熱緩和時間と当院のレーザー機器のパルス幅を縦の対数時間軸で比べた図。メラノソームは数百ナノ秒、細い血管は約10ミリ秒、毛包

機器 パルス幅 主な標的 標的の大きさ
PQXピコレーザー
(532 / 1064 nm)
300 ピコ秒 メラノソーム・刺青粒子 約0.5〜1 μm
ヘリオス785
(785 nm)
600 ピコ秒 メラニン顆粒(より深い層) 約0.5〜1 μm
ルビーフラクショナル
(ナノスターアール・694 nm)
30 ナノ秒 メラニン(点に分けて当てる) 約0.5〜1 μm
Fotona SP Dynamis
(1064 / 2940 nm)
マイクロ秒〜60秒 血管・毛・真皮全体 0.1 mm〜数 mm

それぞれの機器がどのように選択的光熱分解の考え方を活かしているかを、この順にご紹介します。

ピコ秒レーザー(532nm/785nm/1064nm)による色素病変治療

当院にはピコ秒レーザーが2機種あります。PQXピコレーザー(532nm/1064nm・パルス幅300ピコ秒)と、ヘリオス785(785nm・パルス幅600ピコ秒)です。

3つの波長には、それぞれ役割がある

ピコ秒レーザーは、発振パルス幅がわずか数百ピコ秒(1ピコ秒=1兆分の1秒)と非常に短く、従来のナノ秒Qスイッチレーザーよりさらに短いパルス幅を実現した技術です。メラノソームの熱緩和時間(数百ナノ秒)よりさらに短い時間で照射できるため、周囲への熱拡散がいっそう小さくなります

  • 532nm:メラニンにもヘモグロビンにも強く吸収されます。浅い層のシミ・そばかす、赤みを帯びた病変(毛細血管拡張・赤い刺青)に向きます
  • 785nm:その中間。メラニンへの吸収を保ちながら、ヘモグロビンへの反応が小さい波長帯です
  • 1064nm:皮膚の深いところまで届きます。太田母斑や青黒い刺青など真皮にある色素に用います

波長ごとに光が皮ふのどこまで届くかを比べた図。532nmは表皮まで、694nm(ルビーフラクショナル)は真皮浅層、785

当院での見え方|波長で「届く深さ」が変わる

波長が長いほど、光は深くまで届きます。メラニンに吸収されにくくなる分、表面で消費されずに奥へ進むためです。

この順に並べると、532nm(浅く薄いシミ)→ ルビーフラクショナル 694nm → 785nm → 1064nm(いちばん深く)となります。

785nm は照射直後の反応を穏やかにとどめられ、炎症後色素沈着(PIH)の確率が 532nm のピコより低くなります。だから広い範囲にスポット照射をするという選び方ができます。

実際には、785nm や 694nm で治療したあとに残った浅く薄いシミを、最後に 532nm でスポット照射する、という順番になることがあります。

この序列がいちばんはっきり効いてくるのが ADM(後天性真皮メラノサイトーシス)です。両頬の外側などに左右対称に出る、青みがかったシミです。色素が真皮にあるため、多くはルビーフラクショナル(694nm)で治療できます。

それより深いところに色素が残る場合は 785nm のヘリオス785、さらに深ければ 1064nm を使う PQX フラクショナルへ。深さに合わせて切り替えていきます。切り替えの判断や治療の進み方は、ADMのページでご説明しています。

なお 532nm と 1064nm は、同じシミに当ててどちらが優れているかを比べる関係ではありません。この序列の両端にあたるので、そもそも対象とする病変が変わります。

熱ではなく、衝撃で砕く

光音響効果によるメラニン顆粒の破砕を3段階で示した概念図。照射前のメラノソーム、照射の瞬間に粒だけが加熱され衝撃波が生まれる様子

ピコ秒レーザーの超短パルスは、光音響効果(フォトメカニカル効果)で色素顆粒を微粒子レベルに粉砕します。砕けた粒子は、マクロファージに取り込まれて運び出されます。

皮膚を模したファントムでの観察では、ピコ秒で砕けた粒子のほうが、ナノ秒より損傷域内に均一に分散したと報告されています(参考文献7)。色素沈着を起こしやすい肌質でも、炎症後色素沈着のリスクが比較的低かったとする報告があります。

もともとタトゥー除去のために使われていた技術ですが、現在は色素斑・ニキビ瘢痕・妊娠線・光老化まで適応が広がっています(参考文献6)。従来のレーザーでは反応しにくかった薄いシミに対しても、選択肢の一つとして使っています。

点に分けて当てる(MLA と DLA)

また、一部のピコ秒レーザーにはフラクショナルレンズMLADLA)を装着し、微小な点状の高エネルギー領域を作り出すことでピコ秒フラクショナル照射が可能です。これにより表皮を剥かずに、真皮でレーザー誘起光学ブレイクダウン(LIOB)を起こせます。ニキビ痕や毛穴の改善、肌質の向上にも使われる照射です。

LIOBの概念図。ピコ秒レーザーの光をフラクショナルレンズ(MLA/DLA)で点に分けると、表皮を通り抜けた先の真皮に微小な空洞

MLA(マイクロレンズアレイ)
光を多数の「極小スポット」に分割する「虫めがねの集合体」。
DLA(ディフラクティブレンズアレイ)
回折格子で仮想レンズを作り同様の効果を得る「ホログラムレンズ」。

どちらも 肌内部に微小ホットスポット(LIOB)を形成し、コラーゲン再生を刺激しつつ、表皮の火傷や長期の色素沈着を抑えます。

ピコ秒レーザーは、パルス幅をさらに短くする方向で選択的光熱分解を突き詰めた機器です。当院では通常のシミのほか、ADMや肝斑の治療にも使っています。

ただし肝斑は刺激で悪化しうる病変です。出力を落とした照射を選び、トラネキサム酸の内服を併用するなど、ほかのシミとは別の組み立てにします。ADMと肝斑が重なっている方も少なくないため、肝斑かどうかの見極めは治療を始める前に行います。

各種レーザーの特性等を網羅した仙台のシミ取り治療のページ、およびピコレーザー治療の選び方が参考になると思います。

ルビーフラクショナル(694nm)による色素病変治療

ルビーフラクショナルは、694nm のQスイッチ・ルビーレーザーを、フラクショナル(格子状の点照射)で当てる治療です。当院の機器は販売名「ナノスターアール」。Qスイッチ専用機で、パルス幅は最大出力時に30ナノ秒±20%です。

当院では難治性色素斑(ADMや扁平母斑)や、広範囲のそばかすにこの機器を使っています。

ルビーフラクショナルについての詳細はこちらを参照ください。

694nmルビーレーザーの特徴は、メラニンへの吸収が非常に高く他の組織成分に吸収されにくい波長である点です。そのため色素細胞や色素顆粒を狙いやすく、周囲の正常組織への影響を抑えられます。

点に分けると、何が変わるのか

従来のQスイッチ・ルビーレーザーではスポット照射で高出力を当てるため1回で大きな効果が得られる半面、照射部位に炎症後色素沈着(PIH)が生じたり、かさぶた保護のテープが必要になる欠点がありました。

しかしフラクショナル照射では、無数の微小スポットにビームを分割し間隔を空けて照射するため、一度に皮膚全体を傷つけず部分的な損傷と自然治癒を繰り返す形になります。

その結果、当院では2011年にこの治療を始めてから、テープ保護を使ったことが一度もありません。機器はその間に2代目になりました。理論上は必要になる場面もありうると考えていますが、これまでのところ出ていません。色素沈着も、スポット照射のときほどは起きません。

ADMに向いている理由と、肝斑での注意

例えば ADM は従来だとQスイッチレーザー後に濃くなるリスクが高い難治疾患でしたが、ルビーフラクショナルはそのリスクを抑えつつ徐々に薄くしていくのに適しています。ただし肝斑を併発するケースでは刺激で肝斑悪化の恐れもあるため慎重な適応判断が必要です(トラネキサム酸内服併用などでリスク対策)。

なお、フラクショナル照射にはその場で見える終点がありません。照射の正確さがそのまま結果を左右する治療です(「終点」の章でくわしく)。

ルビーフラクショナルは選択的光熱分解とフラクショナル技術の組み合わせにより、効果とダウンタイムの釣り合いを取った色素治療と言えるでしょう。当院でも肌の状態に合わせ、必要に応じてピコレーザー等と使い分けながらシミ治療を行っています。

シミ取りレーザー機種ごとの使い分けの詳細

Fotona Dynamis(1064nm・2940nm)の幅広いパルス幅調整と応用

当院が導入しているFotona SP Dynamisは、1台で2種類のレーザーを搭載した多機能プラットフォームです。Nd:YAGレーザー(ネオジムヤグ・波長1064nm)とEr:YAGレーザー(エルビウムヤグ・波長2940nm)を組み合わせており、皮膚の様々な悩みに対応できます。

1064nm|パルス幅を変えて、血管にも毛にも

選択的光熱分解の観点で目を引くのは、この Nd:YAG が持つパルス幅の可変範囲の広さです。

ミリ秒(ms)オーダーのロングパルスから、マイクロ秒〜サブミリ秒のショートパルスまで。さらに Fotona 独自の超ロングパルス(0.3〜60秒PIANOモード)まで載っています。

これにより、標的の大きさや深さに合わせてパルス幅を選び、熱エネルギーの伝え方を制御できるのが大きな強みです。

1064nm は皮膚の深いところまで届きます。コラーゲンや水にもある程度吸収されますが、メラニンとヘモグロビンへの吸収は中程度です。

だから血管治療では、細く浅い血管には短めのパルス(数ミリ秒以下)で瞬間的に、太く深い血管には長めのパルス(10〜50ミリ秒以上)でゆっくりと。標的に合わせて、加熱のしかたを変えられます。

脱毛でも産毛や細い毛には短いパルス、太く深い毛には長いパルスと使い分けます。毛の太さに幅があっても、設定で追いかけられます。

同じ 1064nm でも、パルス幅を変えれば届く先が変わります。0.3〜60秒の超ロングパルス(PIANOモード)は真皮全体をゆっくり加温し、コラーゲンの産生を促します。ごく短いパルスは、表在性の色素斑や、微小な凝固点を多数作るニキビ治療(FRAC3)に使われます。

このように「短いパルス=小さな・浅い標的に」、「長いパルス=大きな・深い標的に」と調整できることは、選択的光熱分解の理論を臨床で活かす工夫です。パルス幅を変えると熱がどこまで広がるかは、「熱緩和時間(TRT)」の章の図でご覧いただけます。

2940nm|水に吸わせて、表面を入れ替える

Fotona SP Dynamis のもう一つのレーザー、Er:YAG 2940nm は水への吸収が極めて高い波長です。主な用途は、皮膚表面の蒸散(アブレージョン)。

2940nm をフラクショナルモードで照射すれば、肌の入れ替え治療(ニキビ痕や小ジワの改善など)にも使えます。

この Er:YAG もパルス幅を変えられます。短いパルスなら表皮を瞬時に蒸発させるシャープなアブレージョン、長めのパルスなら真皮に熱を浸透させながら凝固層を作る。従来のCO2レーザーのような深い焦げを残さずにフラクショナル治療ができ、ダウンタイムや色素沈着のリスクを抑えられるという利点があります。

1台で何役もこなせる理由

Fotona SP Dynamis の強みは、「波長×パルス幅」の組み合わせを大きく動かせること。だから、一人ひとりの皮膚の状態に合わせた設計ができます。

対応できる範囲も広く、表在性のシミ取りから深部のたるみ治療、血管拡張の改善、ニキビや毛穴治療まで、一台でまかなえます。当院では複数の施術を組み合わせる「コンビネーション治療」にも使っています。

一見すると何でもできる機械に見えます。ただ、根っこにあるのは「適切な波長で、適切な時間だけ、適切な対象に熱を与える」という選択的光熱分解の原理で、そこは他の機器と変わりません。

波長とパルス幅の組み合わせを、機械の側でどこまで動かせるようにするか。その方向を突き詰めていくと、Fotona SP Dynamis のように1台で何役もこなすプラットフォームの形に行き着きます。

Fotona SP Dynamis は多岐にわたる治療が可能なため、一つのページにまとめることはできませんが、代表的なたるみ治療プログラム「フォトナ6D」も、選択的光熱分解の考え方を複数のパラメータで使い分けている施術の一つです。

パルス幅は、治療のたびに回す「つまみ」ではない

ここまで読むと、パルス幅を毎回調整しているように見えるかもしれません。実際は違います。

ピコ秒レーザーやQスイッチレーザーは、パルス幅が機器ごとにほぼ固定されています。出力やスポットサイズは変えられても、パルス幅そのものを連続的に動かせる機械は、シミ治療用にはほとんどありません。

ノーマルパルスとQスイッチを切り替えられるルビーレーザーやヤグレーザーはあります。ただしこれは、シミを取るときにパルス幅を調整しているのとは違います。切り替えた先は、そもそも別の治療です。

パルス幅を連続的に動かせるのは、上の Fotona SP Dynamis のような機器です。そしてその対象は、血管や毛のように標的の太さが大きく変わる治療のほうです。

つまりシミの治療では、パルス幅は「どの機種を選ぶか」を決めた時点でほぼ決まります。機種を選ぶという作業が、そのままパルス幅を選ぶことになる。これが、当院に複数のレーザーがある理由です。

おわりに|理論で説明できること、できないこと

選択的光熱分解は、レーザー治療のほとんどの場面で前提になっている考え方です。どの波長を選び、どれだけの時間だけ照射するか。この2つが決まれば、何が加熱され、何が加熱されないかは、かなりの部分まで計算で見当がつきます。

ただし、計算で決まるのはそこまでです。表皮をどう守るか(冷却)、当たったかどうかをどう確かめるか(終点)、どれだけのエネルギーを入れるか(出力)。この3つは、機器の設計と、照射する側の判断に委ねられています。

当院がレーザーを選ぶときに見ているのも、そこです。同じ「シミのレーザー」でも、波長・パルス幅・冷却の設計が違えば、向いている病変が変わります。診察では、その使い分けをご説明しています。

参考:PDLの波長は年代によって変化。

時期・装置 主波長 主な用途 備考
初代 PDL(1980年代) 577 nm ポートワイン血管腫(PWS)ほか血管病変 キセノンランプ励起の色素レーザー。当初は 577 nm/0.3 ms が標準だった
改良型 PDL(1990年代以降の主流) 585 nm595 nm ポートワイン血管腫、苺状血管腫、酒さなど わずかに長波長化し、深達性と安全性を両立。現在の「スタンダード PDL」
577 nm OPSL/ダイオード
イエローレーザー」
(2010年代~)
577 nm 毛細血管拡張、赤ら顔など 色素ではなく半導体光学励起レーザー。連続または高出力パルスで使用

参考文献

このページの説明は、院長の診療経験と、国内外の研究をもとにしています。根拠にした文献を下にまとめました。タイトルをタップすると、どのような研究で、このページのどこを支えているのかをご覧いただけます。

理論の原典

1標的が冷めるより速く照射すれば、狙った構造だけを壊せる

原題: Selective photothermolysis: precise microsurgery by selective absorption of pulsed radiation

著者: Anderson RR, Parrish JA

出典: Science. 220(4596):524-527 (1983) PMID: 6836297

DOI: 10.1126/science.6836297

要約:

選択的光熱分解という考え方を初めて示した論文です。標的の色素がよく吸収する波長を選び、その標的が熱を逃がすより短い時間だけ照射すれば、狙いを正確に定めなくても、色素を持つ構造・細胞・小器官だけに損傷を起こせることを、簡潔な予測モデルとともに示しました。実験では、577nm を3億分の1秒で照射して皮膚の微小血管に、351nm を5000万分の1秒で照射してメラノサイト内のメラノソームに、それぞれ選択的な損傷が生じることを確認しています。

本ページでは、ページ全体の土台となる理論の出典として参照しています。とくに「標的がよく吸収する波長」と「熱緩和時間より短いパルス幅」という2条件の説明は、この論文に基づいています。

2色素と壊したい場所がずれている標的では、適したパルス幅は熱緩和時間より長くなる

原題: Extended theory of selective photothermolysis

著者: Altshuler GB, Anderson RR, Manstein D, Zenzie HH, Smirnov MZ

出典: Lasers Surg Med. 29(5):416-432 (2001) PMID: 11891730

DOI: 10.1002/lsm.1136

要約:

色素が均一に分布していない標的、たとえば毛のように色素が濃い部分と壊したい部分が離れている場合に、選択的光熱分解をどう拡張するかを理論化した論文です。平面・円柱・球という3つの標的形状について、色素で生じた熱が拡散して標的に届くという考え方を示し、あわせて摘出したヒト毛包にフルエンスを一定にしてパルス幅だけを変える実験を行いました。その結果、損傷範囲は 30〜400ミリ秒という広い範囲でパルス幅にほとんど左右されませんでした。ここから、色素が偏在する標的では治療に適したパルス幅が熱緩和時間(TRT)より有意に長くなることが導かれ、脱毛や血管硬化療法のパラメータ設定の根拠となりました。

本ページでは「熱緩和時間(TRT)」の章で、TRTより短いパルス幅という原則がそのまま当てはまらない場合の説明として参照しています。なお本文では原著の実験値(30〜400ミリ秒)をそのまま示しています。

フラクショナルへの発展

3皮膚を点で壊せば、表皮を残したまま真皮を作り替えられる

原題: Fractional photothermolysis: a new concept for cutaneous remodeling using microscopic patterns of thermal injury

著者: Manstein D, Herron GS, Sink RK, Tanner H, Anderson RR

出典: Lasers Surg Med. 34(5):426-438 (2004) PMID: 15216537

DOI: 10.1002/lsm.20048

要約:

微小な熱損傷を格子状に並べる「フラクショナル・フォトサーモリシス」を提唱し、臨床で検証した論文です。1.5μm の試作機を用い、15名の前腕でドット密度を変えて反応を比較したところ、ドットの間隔を250μm以上あけると忍容性が良好でした。典型的な微小治療ゾーン(MTZ)は直径約100μm・深さ約300μmで、再上皮化は1日以内に完了しています。別の30名で目のまわりを2〜3週間かけて4回治療したところ、3か月後に組織学的な真皮の変化がみられ、しわのスコアが18%改善(P<0.001)しました。

本ページでは「フラクショナルレーザーへの発展」の章で、点状に分割して照射するという発想の出典として参照しています。ルビーフラクショナルやピコ秒フラクショナルは、いずれもこの考え方の延長にあります。

新しい標的(皮脂)への応用

4皮脂は1710〜1720nm付近で水より強く光を吸収する

原題: Selective photothermolysis to target sebaceous glands: theoretical estimation of parameters and preliminary results using a free electron laser

著者: Sakamoto FH, Doukas AG, Farinelli WA, Tannous Z, Shinn M, Benson S, Williams GP, Gubeli JF, Dylla HF, Anderson RR

出典: Lasers Surg Med. 44(2):175-183 (2012)(Epub 2011 Dec 13) PMID: 22170298

DOI: 10.1002/lsm.21132

要約:

皮脂腺を選択的光熱分解の標的にできるかを、自由電子レーザーを用いて検証した研究です。天然および人工の皮脂の吸収スペクトルを200〜3000nmで測定したところ、1210・1728・1760・2306・2346nm付近に吸収の山がありました。1710nmと1720nmでのレーザー加熱は、人工皮脂で水のおよそ2倍、ヒトの皮脂腺では水のおよそ1.5倍でした。組織学的にも、約1700nmを100〜125ミリ秒照射した検体で皮脂腺に選択的な熱損傷が認められ、表皮はいずれの検体でも損傷していませんでした。

本ページでは「皮脂腺を標的とするレーザー治療」の章で、1726nm という波長が選ばれた根拠として参照しています。「メラニンの約26倍」という説明を訂正する根拠もこの論文で、本研究が測っているのは皮脂と水の比較であり、メラニンとの比較は行われていません。

5温度を測りながら分けて照射すると、皮脂腺だけを選んで壊せた

原題: Treatment of Acne With a 1726 nm Laser, Air Cooling, and Real-Time Temperature Monitoring, Software-Assisted Power Adjustment to Achieve a Temperature Endpoint With Selective Sebaceous Gland Photothermolysis

著者: Tanghetti EA, Sierra R, Estes M, Eck A, Intintoli A, Hofvander H, Cohen JL, Friedmann DP, Goldman MP, Pomerantz H, Wang JV, Geronemus RG, Anderson RR, Sakamoto FH

出典: Lasers Surg Med. 57(3):236-251 (2025) PMID: 39780333

DOI: 10.1002/lsm.23872

要約:

1726nm のレーザーに強い送風冷却とハンドピース内蔵の赤外線カメラを組み合わせ、表皮の温度をリアルタイムに見ながら出力を自動調整する装置の開発報告です。1発で高出力を当てるのではなく、目標とする組織温度に達するまでパルスを重ねる方式をとっています。臨床では治療3か月後に炎症性病変数が平均71%減少し、生検では深部の皮脂腺だけが選択的に損傷され、周囲の真皮と表皮は保たれていたことが組織学的に確認されました。また、照射プロトコルを変えることで治療効果を保ったまま痛みの出方が大きく変わり、注射麻酔なしでも実施できる方法が見いだされています。

本ページでは「選択性は、波長だけでは決まらない」の章で、冷却と温度制御を波長の選択と組み合わせるという設計の実例として参照しています。

ピコ秒レーザーの検証

6ピコ秒レーザーの適応は、タトゥー除去から色素斑・瘢痕・光老化へ広がった

原題: Medical Applications of Picosecond Lasers for Removal of Non-Tattoo Skin Lesions—A Comprehensive Review

著者: Kroma-Szal A, Pawlaczyk M, Urbańska M, Cieślawska J, Sobkowska D, Pordąb I, Gornowicz-Porowska J

出典: Appl Sci. 15(9):4719 (2025)

DOI: 10.3390/app15094719(本誌はPubMedに収載されていないため、書誌情報と抄録をCrossrefで確認しています)

要約:

ピコ秒レーザーの皮膚科・美容医療における応用を整理した総説です。もともとタトゥー除去のために使われていた機器が、色素沈着・ニキビ瘢痕・妊娠線・光老化といった幅広い皮膚の状態に用いられるようになった経緯をまとめています。きわめて短いパルス幅により、色素粒子を標的にすると同時に真皮の再構築を促す作用があること、そして安全性の面で扱いやすいことが、適応が広がった背景として挙げられています。

本ページでは「ピコ秒レーザーによる色素病変治療」の章で、ピコ秒という技術がシミ以外にも使われるようになった流れの出典として参照しています。なお、本総説には破砕効率や炎症後色素沈着の発生率に関する具体的な数値は示されていません。以前このページに掲載していた数値は出典を確認できなかったため、削除しました。

7ピコ秒で砕いた色素粒子は、ナノ秒より損傷域内に均一に散らばった

原題: Pattern analysis of laser-tattoo interactions for picosecond- and nanosecond-domain 1,064-nm neodymium-doped yttrium-aluminum-garnet lasers in tissue-mimicking phantom

著者: Ahn KJ, Zheng Z, Kwon TR, Kim BJ, Lee HS, Cho SB

出典: Sci Rep. 7(1):1533 (2017) PMID: 28484226

DOI: 10.1038/s41598-017-01724-1

要約:

皮膚を模したファントムにタトゥー色素を仕込み、1064nm のピコ秒レーザーとナノ秒レーザーを当てて、色素がどう砕けて広がるかを高速度撮影で観察した研究です。どちらのレーザーでも、1発目で色素は粗い粒に割れ、照射を重ねるとさらに細かくなって損傷域の境界へ散っていきました。ピコ秒で砕いた粒子のほうが損傷域内に均一に分散し、またピコ秒5パス→ピコ秒5パスの照射は、ピコ秒5パス→ナノ秒5パスよりも粒子をよく分解しました。高速度撮影では、音響波が数百マイクロ秒から数ミリ秒にわたって反射・伝播しながら損傷域を形づくる様子が記録されています。

本ページでは「ピコ秒レーザーによる色素病変治療」の章で、光音響効果によって色素顆粒が微粒子レベルに粉砕されるという説明の根拠として参照しています。なお本研究は生体ではなく組織模倣ファントムでの観察であり、臨床成績を直接示したものではありません。

照射の終点(エンドポイント)

8照射直後に見える反応は、効いている合図にも、行き過ぎの警告にもなる

原題: Immediate skin responses to laser and light treatments: Therapeutic endpoints: How to obtain efficacy

著者: Wanner M, Sakamoto FH, Avram MM, Chan HH, Alam M, Tannous Z, Anderson RR

出典: J Am Acad Dermatol. 74(5):821-833 (2016) PMID: 27085228

DOI: 10.1016/j.jaad.2015.06.026

要約:

レーザー照射の最中や直後に皮膚に現れる反応を「臨床エンドポイント」として整理した総説です。照射直後の反応には、治療がねらいどおり進んでいることを示すものと、皮膚を傷つけつつある警告を示すものがあり、その裏側にどんな機序があるのかを治療ごとにまとめています。本論文には「臨床エンドポイントのない治療」という項目も置かれており、照射直後に見える反応がない治療が、独立した類型として扱われています。筆頭は Wanner、最終著者は選択的光熱分解理論を1983年に提唱した Anderson です。

本ページでは「選択性は、波長だけでは決まらない」の章で、終点が見える機器と見えない機器があるという説明の出典として参照しています。当院での見え方としてご紹介している内容は、この枠組みのなかの話です。

9メーカーの設定どおりに当てるだけでは、かえって危ない

原題: Immediate skin responses to laser and light treatments: Warning endpoints: How to avoid side effects

著者: Wanner M, Sakamoto FH, Avram MM, Anderson RR

出典: J Am Acad Dermatol. 74(5):807-819 (2016) PMID: 27085227

DOI: 10.1016/j.jaad.2015.06.025

要約:

上の論文と対になる総説で、こちらは警告のエンドポイント、つまり「これ以上は行き過ぎ」を知らせる皮膚の反応を扱っています。著者らは冒頭で、メーカーのガイドラインや出来合いの設定に従うだけの照射について「その方法だけに頼るのは、災いを招くやり方になりうる」と述べ、皮膚に現れる反応を見ながら進めることが安全で確実な指針になると書いています。

本ページでは、理論とメーカー設定だけでは治療が決まらないという本章の趣旨の出典として参照しています。当院がレーザーの照射をすべて医師で行っているのも、この考え方によります。

枠に収まらない波長

10675nm のレーザーは、低出力レーザー治療として整理されている

原題: Exploring the potential of the emerging 675 nm laser across diverse skin pathologies: a comprehensive review

著者: Islam RK, Khachemoune A

出典: J Cosmet Laser Ther. 27(1-2):39-42 (2025) PMID: 39960241

DOI: 10.1080/14764172.2025.2468496

要約:

赤色光領域にあたる 675nm のレーザーについて、加齢による肌の変化・肝斑・尋常性ざ瘡・妊娠線といったさまざまな皮膚の状態への応用をまとめた総説です。冒頭でこの治療を「低出力レーザー治療(LLLT)」に位置づけています。肌の質感やコラーゲンの再構築に改善がみられたと報告する一方、治療プロトコルの最適化にはさらなる研究が必要だとしています。

本ページでは「クロモフォア」の章で、675nm が選択的光熱分解の枠にきれいには収まらないことの出典として参照しています。なお 675nm の臨床報告や基礎研究には、機器メーカーの所属者が著者に含まれるものが少なくありません。当院はこの波長の機器を導入しておらず、中立的な立場から事実のみを記しています。

※ 参考文献は、本ページの記述の根拠として挙げているものです。個々の研究は一般的な医学的知見を示すもので、効果や結果を保証するものではなく、研究デザインや対象による限界を含みます。実際の治療方針は、診察のうえでお一人ひとりの肌状態に合わせてご提案します。

監修者情報(医師紹介)

監修医師 佐藤雅樹(仙台 ソララクリニック院長)

監修医師:佐藤 雅樹 (さとう まさき)

ソララクリニック 院長

専門分野:美容皮膚科

2000年 順天堂大学医学部卒。順天堂大学医学部形成外科入局。 大学医学部付属病院等を経て、都内美容皮膚科クリニックにてレーザー治療の研鑽を積む。2011年3月 ソララクリニック開院 院長就任。2022年 医療法人 松柴会 理事長就任。日本美容皮膚科学会 日本形成外科学会 日本抗加齢医学会 日本レーザー医学会 点滴療法研究会 日本医療毛髪再生研究会他所属。 
様々な医療レーザー機器に精通し、2011年ルビーフラクショナル搭載機器を日本初導入。各種エネルギーベースの医療機器を併用する複合治療に積極的に取り組む.

医師紹介

 初めて受診される皆様へ

※当院の治療はすべて自由診療(保険適用外)です。標準的な費用は各ページの料金表または料金表ページをご覧ください。治療に伴うリスク・副作用は診察時にもご説明します。

最終更新日