ルビーレーザーとYAGレーザーの違いについて
> 初めて質問させて頂きます。
> ルビーレーザーはYAGレーザーよりも性能が悪いので、ルビーレーザーがYAGレーザーよりもシミが取れるわけはないと書いているブログを読みました。心配になって調べてたらそちらでは両方使っているので、どのように考えているのか教えて下さい。
ルビーレーザーとNdYAGレーザーの違いについて 調べられていらっしゃるのですね。
どちらも工業用から医療機器に転用されてきたものであるということを ご理解ください。
「レーザー」の性能は Nd-YAGレーザーが高い
単純に言えば、3準位系のレーザーであるQスイッチルビーレーザー と 4準位系のQスイッチYAGレーザーでは、出力では、4準位の方が高くなります。効率も良いです。以上から、出力の取り出しやすさ、より高出力のレーザーを取りだせるのは、当然YAGレーザーです。
レーザーとしては、当然YAGの方が 効率が良く高出力で出せるものですから、こちらが、高性能です。間違い無いです。
事実 工業,研究機関では、YAGレーザーが多く使用され、ルビーレーザーは、もはや医療系それもシミ(ほくろ)の治療のみでしか 使用されていないものとなっているようです。
では、何故 Qスイッチルビーレーザーが、現在でも使用されているのでしょう。
別に 技術が進んでいるのにも関わらず 古い先生方が固執しているから、と言うことではありません。
「肌のシミ」が対象となれば 話が変わる。
対象が 「肌のシミ」 となった場合に、話が変わってきます。
現実問題として、使用感からすると、通常のシミの治療では、YAGよりも ルビーレーザーの方が 効果が高い印象です。調度良いといったほうが良いのでしょうか。
皮膚のシミを相手にしていますから、かなりの高出力を要求されることはありませんので、出力として、YAGレーザーの方が高出力を出すことは可能でしょうが、シミの場合には、一般的な医療用Qスイッチルビーレーザーでも 遜色なく出せる程度の出力で治療が行われます。問題となるとすれば、YAGレーザーでは、1秒間に10発程照射*(10Hz) することができたりしますが、ルビーレーザーでは、速く打てる機種でも 1秒間に2発程(2Hz)しか出ませんので、時間はかかるように感じるでしょうが、シミを照射するわけですから、マシンガンのように照射することもありません。*(医療用の場合 工業用では100Hz等もあるようですが、医療用では手に余ります。)
シミの治療で 重要になるのが 「メラニン」と「酸化ヘモグロビン」です。
メラニンへの反応が高く 酸化ヘモグロビンへの反応が低いほど シミ治療には効果が高い
シミはメラニン色素の集まりです。シミ用のレーザーで重要なことは メラニンへの反応が高いこと。
しかし 周囲の組織にはあまり影響がないほうが良いです。できるだけシミだけに反応してほしいのです。
皮膚には血液が流れています。その中の赤血球 その中にある酸化ヘモグロビンが 光の影響を受けます。レーザーで反応すると破壊されて 出血や紫斑ができたり 色素沈着のリスクが高まります。
メラニンへの反応が高く 酸化ヘモグロビンへの反応が低い程 シミ治療には良いのです。
下図は各種レーザーの波長と それぞれの物質に対しての吸収曲線です。
(もう少し見やすい図があればよかったのですが、すいません。)
シミの治療で使用される主なレーザーは以下の4種
- KTP(Nd:YAG) 532nm
- ルビー 694nm
- アレキサンドライト 755nm
- Nd:YAG 1064nm
波長が1,064nmのNd:YAGレーザーを KTP結晶で2倍の周波数(1/2の波長)に変換することができます。なのでNd:YAGレーザーは2波長(532nm 1064nm)発生させることができます。
特にシミの治療で使用される KTP と ルビーを比較します。
※上図を参照ください。
メラニン(Melanin)への吸収度
メラニンへの吸収度合いは KTP>ルビー>アレキサンドライト>>Nd:YAG
となり、KTPが一番効果が高くなります。
メラニンの吸収が高ければ高いほど 表層のシミへの反応が高くなります。
KTPは表在性のシミには効果的と言えます。しかし、ある程度の深さを持つシミや深いアザには効果が弱くなります。
ルビーはKTPに準じてメラニンへの反応が高い波長です。
酸化ヘモグロビン(Oxy-hemoglobin)への吸収度
KTP>アレキサンドライト>Nd:YAG>ルビー
酸化ヘモグロビン=血液=血管への反応性、KTPは、血管治療にも使用されます。
酸化ヘモグロビンへの反応が高いと血管が破壊され紫斑ができることがあります。また色素沈着のリスクも高まります。
一方ルビーは殆ど赤に反応しません。
ルビー(694nm)はシミの治療に最適
皮膚のシミに対する効果は、メラニンへの光吸収が高く 酸化ヘモグロビンへの光吸収が低い程 効果的になります。
KTPはメラニンへの吸収は非常に高いので薄いシミへの反応が良いと言えます。しかし、血管にも吸収されることで阻害され あまり深いシミへは効果が出ません。血管が破壊されることで紫斑が出たり色素沈着のリスクが高まります。
他方 アレキサンドライトやNd:YAG(1064)は、メラニンへの吸収はルビーと比較して低く 薄いシミへの反応が乏しい また、酸化ヘモグロビンに対しても反応しますので、出血や色素沈着のリスクがルビーよりも高くなるとされています。
ルビーは メラニンへの光吸収が高く 且つ 酸化ヘモグロビンへの反応が非常に低いと言えます。
そのため、周囲の組織への影響が最小限度にとどまり 比較的薄いシミへの反応も良いなど シミの治療には 理想的な波長なのです。
シミ治療におけるピコレーザー
従来のQスイッチレーザーのパルス幅が5~20ナノ秒であったのに対し (ナノ=10-9)パルス幅が300~750ピコ秒(ピコ=10-12)まで短縮された 所謂「ピコレーザー」が 出てきました。
(巷では 従来のQスイッチレーザーの1000分の1まで短縮されたと言われることがありますが、 10~20分の1になったという方が正しいと思います。)
入れ墨(タトゥー)除去には 色素の破壊・粉砕が強力に発揮されることで 除去能力は従来のQスイッチレーザーと比較しても格段に向上しました。
シミ治療では、パルス幅が短縮されたことで、ダウンタイムの軽減 色素沈着のリスク軽減 薄いシミへの効果も高まりました。
しかしながら 後述の理由により 飛躍的にとはなっていないのが現状です。
それでも メラニン・酸化ヘモグロビンへの光吸収による作用は残る
ピコレーザーに進化したことで、ダウンタイムの軽減 色素沈着のリスク軽減 薄いシミへの反応性が向上しましたが、レーザーそのものの特性は残ります。
現在 美容医療用ピコレーザーは アレキサンドライト Nd:YAGレーザーが存在します。
KTP(532)は薄いシミへの効果が高まりました。
ピコレーザーとなったことで、KTPは表在性の薄いシミに対しての効果は高まりました。しかし、厚めのシミ 深いシミに対しては 深達度の問題で 従来のルビーレーザーの方が優位です。
アレキサンドライトやNd:YAG(1064)は そもそもメラニンへの反応性が乏しい 血管に対する影響 色素沈着リスクは依然として残ります。
メラニン 酸化ヘモグロビンへの光吸収度を踏まえると シミの治療にはピコ秒のルビーレーザーがあれば良いのですが、
残念なことに存在しません。
ルビーフラクショナル
ピコ秒のルビーレーザーが ある意味理想的なものになりそうではありますが、残念なことに存在しません。
パルス幅が短縮されること(ピコ秒になること)で ダウンタイムの軽減 色素沈着の軽減が期待できることになりますが、これに類似したことができているのが、ルビーフラクショナルです。
ルビーフラクショナルは、ミニマムダウンタイム 色素沈着リスクの極小化が実質的に可能となっています。
そこで、当院では 顔全体のシミに対して ルビーフラクショナルを現在も使用しています。
比較的大きなシミに対しては フラクショナル化した照射では 不十分な場合もあるため、現在最もパルス幅の短い+最も高出力照射が可能なピコレーザー(PQX)やルビーレーザーを シミの状態に応じて選択・使用しています。
まとめ
ルビーレーザーとYAGレーザーのどちらがシミ治療に効果的か という問いに対しては 使用する術者によって様々な意見があろうと思います。
光吸収度から各レーザーの特性を説明してみました。
シミ治療においては メラニンへの光吸収が高く 酸化ヘモグロビンへの光吸収度が低い レーザーが基本的に優位になると言えます。
パルス幅の短縮(ピコレーザー)で 副作用の軽減が図れても それぞれの特性は残ります。
それぞれのレーザーの特性を活かし シミの状態に応じて選択ことが重要になります。