肝斑の治療を考える レーザートーニング等
公開:2014年5月12日
投稿者:院長 佐藤
肝斑は 薄いもやっとした感じのシミの一つです。30歳から40歳にかけての女性に多く見られます。最近はCMでもよく見られるようになり かなり身近な「シミ」となってきているように思います。
CM等のお陰で 「シミといえば肝斑」 というように思われている方も少なくなく シミ=肝斑という認識が広がっているように 思う時もあります。
肝斑はシミの一種
シミの代表といえば 「老人性色素斑」です。通常言われるシミの殆どは これです。紫外線が原因とされ 加齢とともに現れてきます。
この他に色々と種類がありますが、その中の一つが「肝斑」です。肝斑は 30~40歳にかけての女性に多く見受けられ、その多くは 両頬にもやっとした薄いシミが 左右対称に見られます。年齢や 左右対称性に出ることなどから、ホルモンからの影響が考えられています。ピルを使用してから濃くなってきたりすることがありますので、体の内部とのつながりが強く示唆される点も 肝斑の特徴と言えます。
しかし 上記のみで説明がつかないところも 肝斑には多くあります。
肝斑対策には 原因をよく考える必要があります。
肝斑は 左右対称性に出ることが多いシミの一種です。
しかしながら、必ず左右対称に出るわけではありません。片方だけ強いということもよくあります。ホルモンからの影響のみで考えていくと 色々と説明がつかないところがあります。
肝斑は 目の周りを避けて出てくる
肝斑は、両頬に対称性に出ることが多いのですが、その他にもフェイスライン 鼻下 額などにも出てくることがあります。
これらの部位は 興味深いことに 擦りやすい部位に一致しています。
日々のスキンケアで 洗顔などの際に擦っている可能性を示唆しています。頬の部位まであるのにもかかわらず 擦りづらい下眼瞼までは出てこない点も 肝斑の原因を考える上で重要です。
肝斑は 肌の慢性炎症に伴う 色素沈着?
日々のスキンケアで 特定部位をこすり続けていると 肌の負担は大きくなります。これにともなって炎症が起きます。 炎症が起きると メラニンを生成する細胞も活性化します。これが 炎症後色素沈着という状態を作ります。日々のスキンケアによって肝斑が増悪していると考えると 治療方針は決まってきます。
肝斑治療の方針
肝斑の治療方針は ホルモンからの影響を直接治療することは困難ですが、この他の原因に対してアプローチしていけば良いことになります。
- 日々のスキンケアの見直し 擦っていないかどうかの確認
- 肌で起きている慢性炎症を緩和する
- メラニンの排出を促進させる
クリニックで肝斑治療を行うためには、双方の協力が必要です。いくら効果的な治療を行ったとしても 1ヶ月にできる日にちは限られます。週1回のペースで治療を行っているとしても その他の26日間擦り続ければ 肝斑が改善してくるまでに 長い期間が必要となることは 理解していただけることでしょう。
日々のスキンケアの見直し
スキンケアの鉄則として 「肌を擦らない」ことを 肝に銘じるべきです。皮膚の構造上 垂直方向の刺激には比較的強固ですが、水平方向の刺激にはあまり強くありません。肌が割けるほどに叩くことは大変困難ですが、肌はこするだけで容易に垢が出ます。角質が擦れ落ちてしまいます。弱いのです。
若いうちは それでも 肌の回復力がありますので あまり問題にならないかもしれませんが、肝斑を気にする年齢になってきたら気をつけるべきです。
トラネキサム酸の内服(肌の炎症を抑えるために)
肝斑には トラネキサム酸が効く ということを知っている方も多いと思います。
肝斑治療では トラネキサム酸の内服は 非常に重要な位置を占めています。以前より 肝斑にはトラネキサム酸が効くということは知られていました。年単位で内服する必要がありますが、肝斑と付き合っていく上で 非常に重要な方法の一つと言えます。
ところで、トラネキサム酸は、アミノ酸の一種です。歯磨き粉にも配合されていたりするぐらい 副作用を探すほうが難しい薬剤ということが知られています。。
どのようなときに使われる薬剤かというと 止血剤として使用されたり、炎症…腫れを抑えたりするために 使用されています。
歯茎の出血を抑えたり、腫れを緩和したりするために歯磨き粉に配合されていたりするほど ありふれているわけですが、止血剤と聞くと 「血がドロドロになって 血栓ができてしまうのではないか」と心配される方も多くいらっしゃることでしょう。事実そのようにブログなどで書いている先生方もいらっしゃるほどですが、少々勘違いをしています。
出血を止めるために生体で起きる作用(凝固系・線溶系)
止血には大きく分けて2つの系統があります。凝固系と線溶系です。
出血が起きた際に 血液が固まり(凝固系) 出血が抑えられます。その後 固まった血餅は体にとって異物なので溶かしてしまいます。(線溶系)。
体の中で凝固系が亢進しているような場合には、血栓ができます。
線溶系が更新している時には 瘡蓋が直ぐ無くなってしまうので、 出血が止まりません。
止血には、凝固能を高めるか、血餅が分解されるのを抑制するかになります。
トラネキサム酸は後者です。
トラネキサム酸は、固まった血餅を溶かす働きを抑制して 血餅が長持ちしてくれるように働いてくれます。(線溶系亢進を抑制 抗プラスミン剤)
血液が固まる力を高めるのではなく 固まった血餅・瘡蓋が長持ちするように効くものです。
固まった血液が長持ちするように効くので、いきなり固まるわけではありませんので、通常の人には問題ありません。
気をつける必要があるのは 下肢静脈瘤 心筋梗塞の既往など 元々血栓ができやすい人です。出来てしまった血栓が分解されづらくなるので、気をつける必要があります。
トラネキサム酸は炎症を抑える
また、トラネキサム酸は、炎症を抑える効果があります。(これが言いたかった。) 慢性炎症からくる色素沈着として肝斑を捉えると トラネキサム酸は肌で起こる炎症を鎮める効果が期待できます。日々のスキンケアによって引き起こされる炎症を鎮めるためには、継続的に使用する必要があります。従来トラネキサム酸の処方は 年単位で行われるものと思っていましたが、継続的な刺激に打ち勝つためには、それだけの期間が必要となることは、容易に想像ができます。
トラネキサム酸内服は、肝斑以外のシミにも効いている?
肝斑にはトラネキサム酸内服が効くということは、CMなどでもよく知られるようになってきましたが、逆に 「肝斑以外には効果が無い」というように思う方も増えました。この点は、シミの治療全般としてやりづらくなってきたと思うところの一つです。トラネキサム酸は肌の炎症を軽減してくれる作用があるため、紫外線などの刺激にも効果が期待できると思います。継続的に内服することで、美白効果が得られてくることは、内服を継続されていらっしゃる方には、よく理解していただける事象だと思います。
トラネキサム酸内服に 期限は一応ありません。
トラネキサム酸の処方には、内服期間による制限は基本的にありません。肝斑と付き合っていく上で重要なトラネキサム酸を休薬する理由が無いためです。
ドラッグストア等で販売されている内服薬の場合には、医師の処方なしに販売するため制限があります。
このため「2ヶ月内服したら、2ヶ月休薬しなければいけない」 という制限があります。
医療機関での処方を ドラッグストアでも売れるようにするため 上記のような制限となっているものです。
医療機関で処方される場合には、期限の制限は元々ありません。
肌の代謝を促進させ、メラニン排出を促進させる。
肝斑の治療には、肌への刺激をできるだけ軽減させ、炎症を抑えこむことが重要です。
しかし、日々のスキンケアの仕方を一から見直し 今までの癖を改善させることは非常に困難な道です。
そこで、クリニックで肝斑を積極的に改善させる治療を受けることが 改善の一つの方法となります。
その中で、ここ数年で急に出現した新しい治療法として レーザートーニングという治療法があります。
低出力レーザーでメラニン排出を促進させる レーザートーニング
肝斑に通常のコンベンショナルなレーザー照射をすると 逆に悪化してしまうことが知られています。従来から肝斑の治療には、Qスイッチレーザーによる治療は禁忌とされてきました。そこに出てきた治療法が レーザートーニングです。メラノサイト(メラニンを作る細胞)をあまり刺激しないように 低出力でレーザーを照射します。これによって メラニンの排出を促進させて 肝斑を改善させていきます。
メラニンの排出を促進させることが目的。
肝斑を 皮膚の慢性炎症に伴う色素沈着 と考えると レーザートーニングが治療法の一つとなり得たことも理解できます。 肌に炎症が起きている時には、メラニンを作る細胞(メラノサイト)も一緒に活発に働いています。 そこにメラノサイトに作用するような通常のQスイッチレーザー照射を行うと、更にメラノサイトは活発に働いてしまいます。
そこで、「寝た子を起こさないように」 弱い出力で照射をすることで、メラニンに吸収させることで、排出を促進させることが レーザートーニングでできる と言われています。
メラニンへの吸収は低い
しかし レーザートーニングで使用される代表的なレーザーの波長は、1064nm(Nd-YAG)です。
上の図のとおり、メラニンへの吸収は あまり強くない波長です。
ですから、メラニンだけを選択的に治療しているものでは無いと 考えたほうが良さそうです。
また、Qスイッチレーザーは、他の一般的なレーザーよりもより深くまで到達します。非常に短い時間でスパイク状に高めた照射を行います。これによって 総エネルギー量を抑えつつ より深くまで到達させることが出来ます。
レーザートーニングは、より深くまで到達するメラニンなどの選択性があまり強くないレーザー を弱く照射する という施術です。
色素選択制に乏しいレーザーを弱く照射していますから、メラニンをターゲットにされているわけではありません。(それなりの出力で打てば、それなりに反応します。)
弱くても それなりの深さまで到達しているはずですから(レーザートーニングでADMの治療を行っている先生もいらっしゃるようです)、 メラノサイトにもそれなりの影響は与えていると考えたほうが良さそうですが、活発化しない程度の弱さで照射することになります。
それなりの深さまで到達するレーザーで、色素にあまり強く反応させずに 炎症を惹起せない程の出力で 何をしているか?
皮膚の代謝を促進させている と考えたほうが良さそうです。
皮膚の代謝を促進させ、その結果 メラニンの排出を促進させる治療法 と言うことができます。
メラニンに直接作用させて何かするわけではない と考えたほうが良いのでは なんて考えてしまいます。
肌の代謝を促進させる方法なら効果が期待できる
肝斑治療におけるレーザートーニングが 学会でも議論の呼ぶところであることは、興味深いところです。
それでも、レーザートーニングを週1~2回程のペースでこまめに行なっていくことで、肌の代謝を促進させ、肝斑が改善されてくることは、実際起きる現象です。
しかしながら、肌の代謝を促進させることで、肝斑の治療となるとすれば、他の一般的な施術でも良さそうです。各種ピーリング,光治療器,ロングパルスレーザー,フラクショナルレーザーでも良いことになります。
肌状態に合わせて、選択すべきものだと思います。色々と異論が出てくる内容ですので多くは書きませんが、肝斑が 「慢性炎症に伴う色素沈着」 と考えると、どの治療法でも 強く行うと 逆効果になることは明白です。
出力を抑えつつ 炎症を悪化させない範囲で 肌の代謝を促進させ メラニン排出を促す
クリニックで行う治療の基本方針は このようになると思います。
まとめ
肝斑治療は、クリニックの努力は勿論ですが、ご本人の努力も重要です。双方の協力無しに改善させることは 困難な道となることでしょう。
更に 肝斑治療にレーザートーニングという施術法は 一部で大変有名となっていますが、唯一の選択しではなく 肌状態に合わせて選択すべき治療法の一つにすぎないということです。寝た子を起こさないように注意しながら、少しずつ確実に進めていくことが重要です。
また、肝斑治療で重要な要素となるトラネキサム酸ですが、多少誤解されているところがあります。正しい知識を持つことで安心して 治療に専念できると思います。