薄いシミはなぜ取れにくい?その解説と対処法について
実際に美容皮膚科でシミ治療を受けたものの、薄いシミがなかなか消えずにお悩みではありませんか?せっかく治療を受けたのに、薄いシミがわずかに残ってしまうと、やはりがっかりしてしまいますよね。
シミ治療ではレーザーが一般的ですが、実は濃いシミよりも薄いシミの方が治療が難しいと言われています。
その理由の一つは、薄いシミはメラニン色素の量が少なく、レーザーが反応しづらいためです。とはいえ、薄いシミだからといって「もう消えない」と諦める必要はありません。
現在では効果的な治療法も登場しており、本記事ではそうした治療法や予防策についても詳しく解説します。それでは、薄いシミが取れにくい理由について、まず結論から見ていきましょう。
結論:薄いシミが取れにくい理由
薄いシミが濃いシミより治療しづらい最大の理由は、シミの元であるメラニン色素の量が少ないためです。
レーザー治療はメラニンの「黒さ」に反応して熱破壊する仕組みですが、薄いシミではメラニンが淡く周囲の肌とのコントラストが低いため、レーザー光が十分に反応しません。
そのため、薄いシミは通常のシミ取りレーザーでは十分に反応せず、一度の治療で消すことが難しいのです。
薄いシミが効きにくい理由(物理の視点)
レーザーは物理的な反応を利用しています。サラッと説明したいと思います。
光熱理論(選択的光熱融解)の要点
- レーザーは「色差=標的」に吸収され、熱でメラニンを壊します。
- 標的が薄いと、周囲の皮膚にも熱が分散しやすくなります。
- 強出力で無理に反応させると、炎症後色素沈着・PIH(戻りジミ)のリスクが上がります。
コントラスト低下とPIHリスク
色差が小さいほど必要エネルギーは上がり、同時に周辺皮膚の熱負担も増えます。
日本人は炎症後色素沈着・PIHを起こしやすい肌質が多いため、出力を上げて一発で取る発想は適しません。
安全域を保ちながら、反応を引き出す設計に切り替えることが重要です。
高出力化の副作用(戻りジミ/PIH)
強く当てると、いったん濃く見える「戻りジミ」(PIH)が生じることがあります。
これは炎症に伴う一過性の色素沈着で、時間とともに薄れます。
避けるには、初回は控えめ設定で反応を確認し、経過を見ながら段階的に出力を最適化します。
以上のように、薄いシミはレーザーで反応しづらく、強く当てれば副作用も出やすいというジレンマが取れにくさの原因です。
特に顔全体に点在するような薄いシミ・ソバカスの場合、一つひとつを強力にスポット照射するとその都度色素沈着リスクが伴うため、従来は治療が難しいとされてきました。
この問題を解決するには、肌に優しい方法で何度かに分けて治療する工夫が必要になります。次章では、当院がどのように薄いシミの状態を見極め、最適な治療方針を立てているかをご説明します。
ポイント(要約)
- 薄いシミは色差が小さく、レーザー反応が弱い。
- 強出力はPIH(戻りジミ)のリスクがあるため、段階的な設計が安全。
見極め:診断と治療方針(肝斑は別アプローチ)
シミ治療を成功させるには、まず「そのシミはどんな種類か」「どの層にどれくらいメラニンがあるか」を正確に見極めることが肝心です。
シミの色と深さの目安(表皮/真皮)
シミの色は様々ですが、その色から様々なことが推測できます。
茶〜黒は表皮優位、灰〜青は真皮優位のことが多いです。
これは、皮膚内での散乱と吸収の割合が波長で異なるためです。
色と境界の出方を手がかりに、どの層にメラニンがあるかを推測します。
表皮優位=茶〜黒
表皮〜基底層のメラニンが中心です。レーザーが適切な設定なら反応が出やすい領域で、段階的にトーンが整っていきます。
真皮優位=灰〜青(チンダル現象)
メラニンが深部にあると青みがかって見えます。青~灰色に見える現象をチンダル現象と言います。
- ※チンダル現象
- 短波長(青系)の光が真皮内のメラニンで散乱して戻り、長波長(赤〜黄)は吸収されて戻らない。その結果観察者には青みが強く見える現象。
深部にあるため、回数と期間をかけた治療設計が必要になります。反応を見ながら無理なく進めます。
肝斑の鑑別と注意点(詳細は肝斑ページへ)
肝斑は左右対称の薄茶色の広がりが特徴で、強いレーザーで悪化しやすいシミの一種です。
肝斑と診断された場合は別の治療計画で対応します。詳しくは 肝斑のページをご覧ください。
VISIAによる状態の可視化
当院ではVISIAを用いて精密に色素の分布等を分析します。
分析結果を基に「どのシミにどの治療を組み合わせるか」を綿密に計画を構築し、薄いシミにも最適解を導き出します。(シミ総合ページ)
まずはVISIAで「今の状態」を可視化してから、無理のない治療計画を提案します。
次章からは、実際に当院で行っている薄いシミへの主要な治療法とその流れ・効果について詳しく解説します。
薄いシミに悩んでいる方も、「自分のシミにはどの方法が効くのだろう?」とイメージしながら読み進めてみてください。
当院の薄いシミへの主要な治療の流れ
薄いシミ治療の柱となるのがルビーフラクショナルレーザーです。当院では顔の薄いシミ・くすみを改善する主力としてこの最新レーザーを導入しています。
ルビーフラクショナルレーザーを主軸に据えたアプローチ
ルビーフラクショナルとは、その名の通り694nmのルビーレーザー光を微小な点状(フラクショナル)に分割して照射する治療法です。
通常のルビーレーザーは、シミ部分にピンポイント照射すると反応が強すぎてかさぶたができます。しかし、フラクショナル照射ではレーザーを微細なドットに分散させるため、肌へのダメージを最小限に抑えつつメラニンだけを破壊できます。
言い換えれば、従来の“シミ取り1発レーザー”の高い色素破壊力に「低侵襲・低リスク」という利点をプラスした画期的な方法なのです。
効果と特徴:
ルビーフラクショナルレーザーは薄いシミ・ソバカスを徐々に面ごとトーンアップするのに適しています。メラニン吸収率の高い694nm光が肌の広範囲に行き渡り、シミの原因メラニンを少しずつ分解していきます。
一度の施術で劇的にシミを剥がすような即効性はありませんが、その分ダウンタイムが短く周囲に気付かれにくいメリットがあります。
レーザー照射後、肌表面では肉眼ではほぼ分からない微細なかさぶたが点々と生じ、数日で自然にはがれ落ちます。(触ると多少ざらついた感じがする程度)
基本的に日常生活に支障はなく、施術当日からお化粧や洗顔も可能です。
色素が薄い部分や広い範囲のくすみは一度では完全には消えないため、複数回の照射を通じて徐々に改善するイメージの治療になります。
施術を重ねるごとにメラニンが減少し、肌のトーンが均一で明るく整っていきます。加えてレーザーの熱刺激によりコラーゲン産生も促されるため、シミだけでなくキメやハリの向上効果も期待できる点は嬉しい副次効果です。
広範囲×多数のシミを低リスクで治療
ルビーフラクショナルレーザーは薄いシミ治療の切り札と言える存在です。
広範囲・多数のシミに対して低リスクでアプローチでき、肌質そのものも改善できるため、当院でも積極的に活用しています。
ただし一種類の施術ですべてのシミを消すことは難しいため、必要に応じて他の施術を補助的に組み合わせることで効果を底上げしています。
次の章では、当院がルビーフラクショナルと併用している代表的なサブ治療について解説します。
補助:窒素プラズマ治療で肌質を整え、美白を促進
薄いシミ治療を効果的に進めるには、スポット的なレーザーだけでなくお肌全体のくすみや色ムラを均一に整えるケアも重要です。
そこで当院ではレーザー治療の補助として窒素プラズマによる施術も取り入れています。
窒素プラズマ治療は特殊なプラズマエネルギーを肌表面に放射し、広範囲の皮膚再生を促します。
レーザーのように特定の色素に反応するのではなく、プラズマの作用によって肌全層に働きかけターンオーバー(新陳代謝)を活性化させます。
その結果、滞留したメラニンの排出が促進され、肌のキメやくすみが改善してトーンアップ効果をもたらします。
加えて窒素プラズマにはコラーゲン産生を刺激し、小じわや毛穴を引き締める作用もあるため、シミ治療と同時に肌質改善・エイジングケアの効果も得られる点がメリットです。
シミと肌の色の差を広げレーザーの効果を高める
広範囲のくすみがベースにある方の場合、強力なレーザー照射を行なうことができません。
シミと肌の色の差が少ないため、あまり強い出力で照射すると、シミ以外の皮膚も反応してしまいます。
または、色の差が乏しい場合には、出力を上げて照射できず、弱い出力で治療を少しずつ進めなければいけなくなります。
レーザー治療の効率が下がるのです。
このような肌状態の場合には、先にプラズマで美白を進め、肌の準備ができてからレーザー治療に移行します。
シミと周囲の肌の色の差を大きくすることで、レーザーの薄いシミへの反応を高めることが可能です。
薄い色ムラ改善のために 最終段階として
当院では主に「レーザーでは反応しにくいごく薄いシミ・くすみを全体的に改善する役割」として窒素プラズマを位置付けています。
例えば、ルビーフラクショナル数回の治療で濃いシミはかなり薄くなったものの、肌の一部にまだ取り切れない薄い色ムラが残っているようなケースがあります。
その場合、プラズマ治療を組み合わせることでお肌のトーンを底上げします。
プラズマはメラニンだけを狙うのではなく肌表面をまるごと新生させるアプローチなので、レーザー後の仕上げとして残存色素を一掃し、肌全体を均一で滑らかな状態に整えてくれます。
このように患者様の状態に応じて、窒素プラズマを前処置に使ったり合間のケアに取り入れたりと柔軟に活用しています。レーザー治療との相乗効果でより確実に薄いシミを撃退し、美しい素肌へと導いていきます。
ポイント
- 浅い層を均一に再生→くすみ排出→色差を作る→レーザーの反応を助ける
PQXピコレーザーによるスポット照射で効果を補強
薄いシミ治療をさらに確実なものにするため、当院ではピコ秒レーザーによるスポット照射も併用しています。
ピコレーザー(PQX)とは、従来のQスイッチレーザーより超短パルス(ピコ秒=1兆分の1秒)で発振する最新型のレーザーです。
極めて短いパルス幅で照射することで、メラニン色素を熱ではなく衝撃波(光音響効果)で微粒子レベルに粉砕できるのが特徴です。
その結果、周囲の皮膚組織に余計な熱ダメージを与えずに色素だけを破壊できます。従来レーザーより色素沈着など副作用のリスクが低減しています。
ルビーフラクショナルを数回行った後でも残存するシミがある場合や、一部だけ他より濃く反応が鈍いシミがある場合には、PQXピコレーザーをその部分にピンポイントで照射します。
ポイント
- PQX 532nm スポット照射:残ったシミをピンポイントで仕上げる
シミ取り:スポット照射(ピコスポット・ルビースポット)の詳細ページ
まとめ:薄いシミはなぜ取りづらい?
「薄いシミにはレーザーが効かないのではなく治療アプローチが異なる」
ことを理解していただけたと思います。
薄いシミが「なかなか消えない」「何をやっても取れない」と感じていた方も、適切な治療プランによって十分に改善が可能です。
薄いシミは一度で取りきることが難しいため時間はかかります。その代わり肌全体を綺麗にしながら少しずつシミを薄くしていくチャンスでもあります。
実際、当院の複合治療を受けられた多くの患者様が「シミだけでなく肌質まで良くなった」「周囲にバレずにいつの間にかシミが薄くなった」といった喜びの声を寄せています。
薄いシミには詳細な分析と最新機器の組み合わせが、成功のカギになります。
一人で悩まず、是非一度ご相談いただければと思います。
よくある質問 FAQ
よくある質問をまとめました。ご参考になれば幸いです。
薄いシミって何ですか?
薄いシミとは、色素沈着が比較的薄く、肌色とのコントラストが弱いシミのことです。肝斑(かんぱん)や薄い日光性色素斑(老人性色素斑)などが該当し、濃いシミに比べて目立ちにくいものの、完全に消すのが難しい傾向があります。
なぜ薄いシミはレーザーで取れにくいのですか?
薄いシミはメラニン量が少なくレーザーの標的になりにくいため、十分な効果を得にくいのです。効果を出すには高い出力で照射する必要がありますが、その分正常な皮膚への刺激も増え、炎症後の色素沈着(PIH)など副作用のリスクが高まります。
薄いシミにはどんなレーザー治療が効果的ですか?
ルビーフラクショナルやピコ秒レーザーなど最新のレーザー治療が薄いシミに有効な場合があります。
ルビーフラクショナルは広範囲のシミを安全に治療可能な点が特徴です。532nmのピコ秒レーザーは表皮のメラニンに反応しやすく、浅いシミの改善に適しています。
また、1064nmの低出力レーザートーニングも肝斑など拡散した薄い色素斑に用いられ、メラニンを穏やかに減少させる治療法です
ルビーレーザーは薄いシミに効きますか?
ルビーレーザー(694nm)のスポット照射(ルビースポット)はメラニンへの吸収が強く、濃いシミ・ソバカスの除去には効果的です。しかし薄いシミには一般に推奨されません。
しかし、照射方法を改善したルビーフラクショナルは薄いシミにも効果的です。
ピコ秒レーザーの532nmとは何ですか?薄いシミにも効きますか?
532nmのピコ秒レーザーは緑色の波長でメラニン吸収が高いレーザーです。超短パルスでメラニンを微粒子状に破壊し、表皮にある浅いシミにも効果を発揮します。
肝斑や雀卵斑(そばかす)など表皮にある色素斑の改善に用いられますが、施術後に一時的な色素沈着が起こることもあります(頻度は約10%程度とされています)。
肝斑にもレーザー治療は有効ですか?
肝斑は再発しやすく治療が難しいシミです。
以前は強いレーザー照射で悪化する例もありましたが、近年は低出力の1064nmレーザートーニングやピコレーザーを用い、メラニンを徐々に減らす治療法が行われています。
それでも完全に消し去ることは難しく、スキンケアや内服薬との併用による継続的な管理が重要です。
レーザー以外に薄いシミを薄くする方法はありますか?
はい、レーザー以外にも薄いシミ対策はあります。代表的なのはハイドロキノン配合の美白クリームなど外用薬や、トラネキサム酸の内服療法です。
これらはメラニンの産生や移動を抑制し、時間をかけて色素を薄くしていきます。ほかにケミカルピーリングやIPL(光治療)が有効な場合もあります。
ただし肝斑では刺激で悪化することもあるため、慎重な判断が必要です。
トラネキサム酸はシミに効きますか?
トラネキサム酸は一般的なシミだけでなく特に肝斑の治療に有効とされています。
本来は止血剤ですがメラニン産生を抑える作用があり、内服や外用で肝斑の色を薄くする効果が認められています。
研究では、トラネキサム酸をレーザー治療に併用するとレーザー単独より肝斑が大きく改善し、患者満足度も向上したと報告されています。
ナイアシンアミドとは何ですか?シミに効果がありますか?
ナイアシンアミド(ニコチン酸アミド)はビタミンB3の一種で、美白有効成分としてスキンケア製品に使われます。メラノソーム(色素顆粒)の移行を抑制し、肌のトーンを整える作用があります。
4%ナイアシンアミド配合クリームを8週間使用した臨床試験では、ハイドロキノン4%クリームと同程度に肝斑が改善し、副作用も少なかったと報告されています。
薄いシミは再発しますか?予防できますか?
肝斑など薄いシミは治療後も再発しやすいです。紫外線やホルモンなど原因因子をできるだけ避け、特に日焼け止めによる厳重な紫外線対策が予防には重要です。
治療で薄くなった後も、トラネキサム酸の継続内服や各種美白成分配合化粧品によるスキンケア,厳密な日焼け対策でメラニンの再形成を抑え、長期的に維持する戦略が推奨されます。
監修者情報(医師紹介)
監修医師:佐藤 雅樹 (さとう まさき)
ソララクリニック 院長
専門分野:美容皮膚科
2000年 順天堂大学医学部卒。順天堂大学医学部形成外科入局。 大学医学部付属病院等を経て、都内美容皮膚科クリニックにてレーザー治療の研鑽を積む。2011年3月 ソララクリニック開院 院長就任。2022年 医療法人 松柴会 理事長就任。日本美容皮膚科学会 日本形成外科学会 日本抗加齢医学会 日本レーザー医学会 点滴療法研究会 日本医療毛髪再生研究会他所属。
様々な医療レーザー機器に精通し、2011年ルビーフラクショナル搭載機器を日本初導入。各種エネルギーベースの医療機器を併用する複合治療に積極的に取り組む.
最終更新日
参考文献
本稿作成時に参考にした文献です。
Qスイッチルビーレーザーによる日光性色素斑治療の有効性と副作用(フィッツパトリックII〜IV型皮膚91例の前向き研究)
原題: Efficacy and adverse effects of Q-switched ruby laser on solar lentigines: a prospective study of 91 patients with Fitzpatrick skin type II, III, and IV.
出典: Dermatologic Surgery (2008年11月号) 34(11):1465-1468.
DOI: 10.1111/j.1524-4725.2008.34310.x ・ PubMed: 18798756
要約: フィッツパトリック分類II〜IV型の患者91例を対象に、Qスイッチルビーレーザー(694nm)による顔面の老人性色素斑治療を評価した前向き研究です。
結果は全例で色素斑が完全消失し、術後の炎症後色素沈着(PIH)はII型で7.8%、III型で9.8%、IV型で16.6%の患者に生じましたが、いずれも6か月以内に改善しました。
著者らは、暗い肌を含めルビーレーザーは老人性色素斑に安全かつ有効な治療法と結論づけています。ただし皮膚が暗くなるほどPIHの頻度が高くなる傾向が見られたため、照射条件などメラニン量以外の要因にも注意し副作用最小化を図る必要性を指摘しています。
新型694nm Qスイッチルビーフラクショナルレーザーによる白人患者の肝斑治療
原題: Treatment of melasma in Caucasian patients using a novel 694-nm Q-switched ruby fractional laser.
出典: European Journal of Medical Research (2013) 18:43.
要約: 白人の肝斑患者25例に対し、新型のフラクショナルQスイッチルビーレーザー(694nm)の有効性と安全性を検討した研究です。
平均1.4回の照射後、4〜6週間後のMASIスコアは72.3%の顕著な低下を示し(6.54→1.98)、短期的には肝斑の大幅な改善が得られました。しかし3か月後の経過観察で28%の患者にPIHが発生、44%の患者で肝斑が再発しました。
著者らは、694nmルビーフラクショナルレーザーは白人の肝斑に短期的改善をもたらす有効な選択肢になり得るものの、数ヶ月以内に高率で再発やPIHが生じうると指摘しています。そのため、低エネルギーでの複数回照射や治療後の美白剤・紫外線対策の併用により、合併症リスクの軽減と効果維持を図る戦略が推奨されています。
中国人色素性病変患者における低フルエンス1064nmピコ秒Nd:YAGレーザーと532nmレーザー治療の比較(後ろ向き解析)
原題: Comparing a Low-Fluence Picosecond 1064 nm Nd:YAG Laser with a 532 nm Nd:YAG Laser for the Treatment of Pigmented Lesions in Chinese Patients: A Retrospective Analysis.
出典: Cosmetics (MDPI, 2024)11(3):89.
DOI: 10.3390/cosmetics11030089
要約: 中国人の顔面色素性病変患者31例を対象に、低出力ピコ秒1064nm Nd:YAGレーザー(いわゆるレーザートーニング)とピコ秒532nmレーザーの治療効果と安全性を比較検討した後ろ向き研究です。
対象病変の大半は顔の老人性色素斑で、治療効果は標準化写真の色素薄まり具合を医師がVAS(視覚的評価尺度)で評価しました。その結果、532nmレーザー群と1064nmレーザー群の顔面病変の改善度(平均VASスコア)はそれぞれ2.2±1.1と1.8±0.8で有意差はなく、両者はほぼ同等の有効性を示しました。
副作用として、532nm群では2例(約6%)に一過性のPIHが発生しましたが1ヶ月以内に消退し、1064nm群では有害事象は報告されていません。
以上より、アジア人の色素斑治療において低フルエンス1064nmピコ秒レーザーは安全で効果的であり、従来用いられてきた532nmレーザーと比べても遜色ない有効性を持つと結論されています。
分割マルチビームレンズ搭載1064nmピコ秒レーザーによる肝斑治療の有効性と安全性
原題: Melasma treatment with a 1064 nm, picosecond-domain laser with a fractionated multibeam lens array.
出典: Lasers in Surgery and Medicine (2023.11) 55(9):801-808.
DOI: 10.1002/lsm.23723
要約: 1064nmピコ秒レーザー(パルス幅450ピコ秒)にフラクショナルマルチビームレンズを装着し、肝斑を治療した臨床研究です。
成人患者20名に4週おき計4回の照射を行い、3か月後と8か月後に評価しました。治療3か月後、盲検下医師評価で平均37%の色素改善が認められ、8か月後でも改善率27%と一定の効果維持が示されました(一部再燃傾向)。
患者の90%が治療結果に満足し、副作用も軽度の紅斑程度で大きな問題はありませんでした。
著者らは、本治療が肝斑に対して安全かつ有効な改善手段となりうることを示し、特に従来の外用療法や日焼け止め対策と組み合わせた補助療法として有用であると結論しています。
ピコ秒755nmアレキサンドライトレーザーと外用トラネキサム酸併用療法による肝斑治療の安全性と有効性(ランダム化比較試験)
原題: Safety and efficacy of a picosecond 755-nm alexandrite laser combined with topical tranexamic acid in the treatment of melasma.
出典: Journal of Cosmetic Dermatology (2024.11) 23(11):3579-3584.
DOI: 10.1111/jocd.16432
要約: 48名の肝斑患者を対象に、顔の片側にピコ秒755nmアレキサンドライトレーザーとトラネキサム酸(TXA)外用を併用し、反対側にはレーザー単独を行うスプリットフェイス試験が実施されました。
4週間隔で合計3回の照射とTXA外用を行った結果、併用側はレーザー単独側に比べ肝斑の重症度スコア(mMASI)が有意に低下し、皮膚中のメラニン量や赤みの指標も大きく改善しました。
治療後の患者満足度もTXA併用側で71.4%、単独側で54.3%と併用療法の方が高く、副作用も併用側では認められず、単独側では5例(10.4%)に一時的な色素沈着が発生しましたが全て3ヶ月以内に消失しました。
以上より、本試験はピコ秒レーザーとトラネキサム酸外用の併用が肝斑治療効果を向上させ、副作用リスクを低減しうることを示しており、新たな有望な治療戦略と結論づけています。
ハイドロキノン4%単独とハイドロキノン4%+窒素プラズマ併用による肝斑治療効果の比較(スプリットフェイス試験)
原題: Split-face comparison of hydroquinone 4% plus nitrogen plasma vs. hydroquinone 4% alone in the treatment of melasma.
出典: Lasers in Medical Science (2023) 38(1):113.
DOI: 10.1007/s10103-023-03757-7
要約: 肝斑患者の左右顔面にハイドロキノン(HQ)4%クリームを塗布し、片側のみ週1回の低温大気圧窒素プラズマ照射(合計8回)を追加する比較試験が行われました。
治療後の改良型MASI(mMASI)による評価では、プラズマ併用側で色素沈着が平均48.1%減少し、HQ単独側の33.0%減少を有意に上回りました。両側とも肝斑は改善しましたが、プラズマ併用により改善度が向上しています。経過中、経表皮水分損失や皮膚バリア機能に有害な変化は認められず、患者の不快感もありませんでした。
このことから、窒素プラズマ照射は肝斑治療においてHQクリームの効果を安全に高める有望な補助療法であると示唆されました。
肝斑治療における4%ナイアシンアミド vs 4%ハイドロキノンの二重盲検ランダム化比較試験
原題: A Double-Blind, Randomized Clinical Trial of Niacinamide 4% versus Hydroquinone 4% in the Treatment of Melasma.
出典: Dermatology Research and Practice (2011) 2011:379173.
DOI: 10.1155/2011/379173
要約: 肝斑患者27名を対象に、片側頬にナイアシンアミド4%クリーム、反対側にハイドロキノン(HQ)4%クリームを8週間塗布する無作為二重盲検試験が行われました。
8週間後、HQ側の肝斑面積・重症度指数(MASI)は平均70%減少し、ナイアシンアミド側も62%減少しており、両群間に有意差は認められませんでした。治療前後の写真評価でも両側で同程度の色素改善が確認され、ナイアシンアミドはHQと同等の美白効果を示しました。
副作用としてHQ側では18%に軽い刺激症状(発赤など)がみられたのに対し、ナイアシンアミド側では有意な副作用は認められず、皮膚刺激の点で良好な耐容性を示しました。
以上より、本試験はナイアシンアミド4%が肝斑に対しハイドロキノン4%と同程度に有効で、副作用が少ない代替治療となり得ることを示唆しています
肝斑治療におけるトラネキサム酸の有効性と安全性:ランダム化比較試験のメタ分析
原題: Tranexamic acid as a therapeutic option for melasma management: meta-analysis and systematic review of randomized controlled trials.
出典: Journal of Dermatological Treatment (2024.12) 35(1):2361106.
DOI: 10.1080/09546634.2024.2361106 ・ PubMed: 38843906
要約: 肝斑に対するトラネキサム酸(TXA)の効果を評価した22件のランダム化比較試験(総患者数1280例)を解析したメタ分析研究です。
TXAの経口投与・外用・局所注射はいずれも肝斑の重症度指標(MASI、mMASIなど)を有意に改善し、特に経口投与によるMASIスコアの減少効果が最も大きいことが示されました。
副作用として報告されたのは、消化不良などの消化器症状、皮膚の刺激感、月経不順といった軽度なものが中心で、深刻な有害事象は認められていません。
以上より、TXAは単独でも他の治療と併用しても肝斑に有効であり、安全性も良好と結論づけられています。ただし、用量・投与経路の最適化や長期効果の検証など、今後解決すべき課題も指摘されています。
肝斑の正体:治療における課題への挑戦
原題: Unmasking Melasma: Confronting the Treatment Challenges.
出典: Cosmetics (MDPI, 2024)11(4):143.
DOI: 10.3390/cosmetics11040143
要約: 肝斑の病態と治療戦略について最新の知見をまとめた総説です。
肝斑は主に顔面に左右対称に生じる不規則な茶色〜灰色斑で、紫外線、ホルモン(妊娠・経口避妊薬)、遺伝素因など複数の要因が関与する複雑な病態を持ちます。そのため各種治療への反応が限られ再発率も高く、治療が難しい疾患です。
長年メラニン合成阻害剤のハイドロキノンが肝斑治療の黄金標準とされてきましたが、刺激性や白斑など副作用への懸念から近年見直しもあります。
現在はトラネキサム酸の内服や外用、コウジ酸・ナイアシンアミドなどの外用、レーザーやピーリング等を組み合わせ、それぞれの作用機序を補完し合う多角的アプローチが推奨されます。
特に厳格な紫外線防御(フォトプロテクション)は肝斑治療と再発予防の基盤であり、患者の肌質や生活習慣に合わせて治療をオーダーメイドしつつ、長期的な維持療法としてこれらを継続していく必要性が強調されています。